現実.31
[私をどこかに連れてけとは言わない。きっとツトムさんは次の調達にヒロ君を連れてくわ。その時に私も行きたいの]
真剣な眼差し。これが何かの為の演技だったらたいしたもんだ。
[俺からは頼めない。ミズホさんからもう一度頼むんだ。ツトムさんから相談されたら、俺は連れてっても大丈夫だろう。と言う。それなら出来る。それでもダメなら諦めるんだな]
ツトムさんを口説き落とす自信はある。
正直、三浦家の子供や女達に危機感がないのはどうかと思っていた。ツトムさん達が居ない間にもし人間が来たら?そして略奪が目的だったら?そうなれば三浦家に居る人達だけで対処しなければならない。最悪、殺し合いになるかもしれない。危機感や緊張感がないとかなり厳しい。志織を任せられない。
物資の調達は満月の明るい夜に行動するはずだ。ゾンビは大丈夫だが他の人間も同じ事を思う。出くわしたら間違いなく取り合いになる。ゾンビは襲わないが人間は襲ってくる。
リスクは高いが、やはり何度か経験はさせるべきだ。女、子供でも好戦的な人間に立ち向かえる位の。せめて気迫だけでも立ち向かえる位でないと。弱気を見せたら間違いなく負ける。
ミズホさんは、分かった。ありがとう。と言った。
[ねぇ、やっぱり大変だった?話したくない事は話さなくていいから、なんか話ししてよ]
ミズホさんは続けて言った。
俺は病院の話をした。
ゾンビの形態を知っても損はない。むしろ知っておくべきだと思う。
[ゾンビの事は皆にも教えてあげてね]
と俺は最後に付け加えた。普段の生活には役に立たないが、知っておくのと知らないのでは全然違う。俺も話した事で再確認出来たから話して良かったと思った。
[ねぇ、人間と争って…その、殺した事ある?]
おずおずとミズホさんは言った。
[俺達はまず逃げる事を最優先に考えるからね。争った事もないよ]
[もし、これから争う事があってどうしても殺さなきゃならない場合は?]
[俺は、俺と志織の命が最優先だから躊躇なく殺すよ。殺されるかもしれないけどね。でも仕方ない]
そう、俺の中ではゾンビも人間も同じ。いや、俺と志織以外はどれも同じだ。それは今までも、これからも変わらないだろう。それを目標にして生きてきたからだ。
[そっか。やっぱ羨ましいな]
俺は首を傾げた。なんで?
[だってさ、ツトムさんは三浦家の為に私を大事にしてくれてるのよ。私を守るのは私だからじゃないのよ。でもヒロ君は志織ちゃんの為に守ってるんてでしょ]
なるほど。そういう見方もあるのか。俺は志織を守るという俺が生きる目的の為に守ってる。もちろん志織は大事だ。赤の他人でも三年も一緒にいれば大切な人に感じる。でも俺の存在意義の為だと思ってた。
志織を大好きとか愛してるとは違う。家族愛だ。
だからかもしれないがツトムさんの気持ちがよく分かる。




