小説.38
十回ほど通れない道を迂回した位で大きなトラブルもなく実家のある県に入った。
景色はこれまで通って来た町と変わらないのだが、気分的に安心する。
ゾンビの数は密集していないものの、たくさんいる。ゾンビの出す腐敗物の量が東京よりも少ない気がする。
道路が広いからかもしれない。
人の数は分からないが、見かける時は五、六人のグループをよく見かける。
多分、もっと大勢のグループが居るのかもしれない。
俺はフルフェイスのヘルメットをかぶっているから、バイクから降りてもゾンビとはバレない。
声をかけられる事もあったが聞こえないフリをした。
殺伐な気配は感じないのだが、俺は早く決着をつけたい気持ちだった。家族が生きてるのか死んでるのか。もしくはゾンビになっているのか。早く知りたかった。
志織は最初からだが、おとなしい。元々おとなしい性格とは思えないのだが、余計なお喋りをしない。必要な時に必要な事を話す。俺としては助かるのだが。
そんな志織が走ってる最中に俺の腕を引っ張った。
トイレかな。と思った。
アクセルを緩めると、志織は指を指した。そこを曲がれという事らしい。
珍しいな。と思いながらも、めったにない志織の行動に従う。
何回か志織の言われるままに走る。
最後に指を指したのは病院だった。
入り口は二台の大型ダンプで塞がれていた。病院を一周する。
広い駐車場には車が一台もなく、車は全て壁際に積まれてた。緊急搬入口も救急車で塞がれていた。
病院内に入れる場所がない。
ゾンビはいつも通り。というか予想内の数。だいたい二、三百人。いや四百人位?病院を取り囲んでいる。中に人が居るという事。
夜にならないと近寄れない。
[体調悪いのか?]
俺は聞いたが志織は首を振る。
[何か用事があるのか?]
[パルキッツァがこの病院にこれを渡せって]
と手紙の束を見せた。
手紙の事をパルキッツァは俺には言わなかった。考える。多分、俺だと約束を破るかもしれない。と思ったのかもしれない。俺よりも志織に頼んだ方が届く確率が高いと。
パルキッツァを理解するのは難しい。
でも、俺に頼んでもちゃんと届けるのに。




