小説.34
夕方になってやっと男は二階に上がって来た。足元の薬を見て、俺は病気じゃないぞ。と怒り出す。俺は、予防です。風邪の予防。と言ってなだめた。男は納得してくれた。薬を掻き集めながら[これは予防薬だからな]と何回か言う。俺はその度にうなづく。
俺に出来る事はこれ位だ。
[さてと、必要な物を取りに行く]
軍手を渡される。三人共新品の軍手。ハシゴを降りる。これを着ろと言われる。雨ガッパの上下。ゾンビが近くに居るのもおかまいなしに服の上から着る。
[この時間ならゾンビは襲わない]
ゾンビの肩に手をおいてズボンを履く。
頼り甲斐があるのか、危ないのか全く分からない。万が一掴まれたら骨が折れるというのに。
[夜でも襲うゾンビが居ますよ]
俺は言った。
[そんなもん居たらとっくに襲ってくるわい]
男は鼻をならす。農◯の店に入る。男はスタスタと農機具の所に行く。目星は付けてあるのだろう。工具を広げ、ボルトを外していく。車輪の付いた工具入れに色々な物を入れて[おい、これを右側のシャッターの赤いマークの前に置いて来い。赤だぞ]と言った。俺は言われたまま、ガラガラと工具入れを押して持って行く。男は次々と農機具のボルトやネジを外している。
スーパーのシャッターには色ペンキでマルのマークが三箇所書いてあった。その一つが赤いマーク。そこに置く。人の気配はしない。急いで戻る。
すでに次のカートが荷物を積んで置いてある。同じ所に。と言われ往復する。
だんだんと日が沈み暗くなる。オーロラが現われる。
[よし、休憩だ]と言って男は地べたに座る。俺達も真似をする。[お茶持ってきたぞ]と紙コップを出し注ぐ。男は懐中電灯の光を消した。外の向こう側から光がチラホラ見えた。人間が道路をやって来る。男は座ったまま。俺達も動かない。[一人なら大丈夫だ]男はそれだけ言ってまた黙った。
目の前の道路を人間が一人通り過ぎて行った。男はまた懐中電灯を付けた。
[なぜ分かったのですか?]俺は聞いた。[普通、分かるだろ]男は答えた。多分この男は本気で分かるのだろう。カンなのか感覚なのかは分からないが。
[よし、ちょいと危ないが行くか。ゾンビも来ないしな]
と立ち上がる。帰ってから聞いたのだが、夜でも襲って来るゾンビが近くに居るなら、農◯側に置いときたいのだそうだ。
男はゾンビを押しのけて歩く。その後ろに俺達は付いていく。俺はこれだけ堂々とゾンビの群れの中を通る事はしない。
雨ガッパと手袋を外してからハシゴに上がる。男は脱いだ雨ガッパをゾンビにかぶせた。手袋は森の方に投げ捨てる。使い捨てらしい。
男は缶詰と飲み物を選び俺達に渡す。男の分は手に持ったまま。明日の夜には終わるからな。そう言い残し一階へ降りて行った。
俺達は食べながら下の男の事を話ししあう。
普通ではないからこそ、普通の人では分からない事が分かる。確かサヴァンといった人種。ネットがあれば調べられる。




