小説.33
手持ち無沙汰のまま、時間は過ぎる。
ウロウロしたり、男の書いてる図面を覗いたり時間を潰す。志織が横になると言って二階に上がる。生理なのかもしれないので俺はうなづくだけにした。
男を見る。この男は幸せなのかもしれない。毎日やる事がある。図面を引いたりバイクや車を改造するのが楽しいのだろう。少なくとも嫌々やってるわけではない。好きだから集中出来る。夢中になれる。
満足出来る行動の数が幸せの数。
缶詰を数えて満足。工具を磨き綺麗になって満足。整理されたネジやクギを見て満足。車やバイクを自分の思ったように改造出来て満足。多分、外の壁の掃除も同じなのだろう。汚れるから掃除をするのではなく、綺麗になるから満足。その満足の為に掃除をする。
ある意味、見習うべきなのかもしれない。
一生懸命、夢中に図面を引いたり電卓を叩いて計算している。
何度も何度も計算し直してるみたいだ。
その男の姿を見てるとバイクを簡単に乗り捨てる事は出来なくなってきた。
きっと丁寧に間違いもなくバイクを改造するだろう。それを惜しげもなく交換してくれる。貰えるワケがない。かと言って今更断っても、この男の事だ。怒るかもしれない。
俺は少し遠いが薬局屋に行って抗鬱剤を取ってこようかと考えた。消毒液や風邪薬、抗生剤は無いと思うが抗鬱剤なら残ってると思う。
志織に薬の名前を聞く。薬局では抗鬱剤や精神安定剤は売ってなく漢方薬。処方箋対応薬局なら、処方室にあると言った。
ハシゴは志織一人でも上げ下げ出来た。俺は急いで薬局に走った。
ゾンビの群れを掻き分ける。誰も人間には出逢わなかった。薬局屋の従業員室は空いていた。誰かがこじ開けたのだろう。
乱雑になってる部屋の中の薬。志織の言った名前の薬はたくさん落ちていた。詰めるだけリュックに詰める。
戻って来てもまだ男は机にいた。
志織はリュックの中の薬を見てる。これ、鎮痛剤。痛み止め。と言ってポケットにしまった。
多分、母親がよく使っていたのだろう。
俺は知らない事だらけだ。




