小説.31
寝てしまった男をそのままにし、他の部屋を調べる。
二階のもう一つの倉庫には綺麗に細かく食料品が並べてあった。タオルも一枚一枚丁寧に畳んである。どれか一つでも崩すと男が怒りだしそうな位、キチンと整理されていた。
銃の弾も綺麗に並べてある。暇なのか、病気なのか。きっと両者だろう。
階段を降り一階。自家発電の機械が三台あり、一台が稼働していた。電気をつける。売り棚が隅っこに置かれてフロアは広い。真ん中に中古の車とバイク。農機具。だがどれも土一つ付いていない。まるで販売してる中古車そのもの。どれだけの綺麗好きなのか分からなかった。
スパナなどの工具も綺麗で壁にかけてある。
バイクはオフロードバイクで前後にカゴが付いていた。予備のタイヤをはめられるような加工もしてあった。
車も窓ガラスには鉄網が張られていて、タイヤには隠すように鉄板が溶接してあった。トランクには大型のガソリンタンク。多分直結してるのだろう。
これをあの男が一人でやったのだろうか?信じられないが。
男の居る部屋に戻る。このまま居るべきか、外に出るべきか。
志織が眠たいと言った。違う寝場所探しも一苦労だから、ここで寝る事に決めた。
俺は銃を色々と調べて時間を潰す。
六時間ほど経ち、男がガバッと起き上がり目覚めた。訳が分からない顔をしてたが、はっきりした顔に変わる。
[朝か?]俺の返事を聞く前に立ち上がり、窓を少し開け、下を覗く。
[うわぁ。やる事やらずに寝てしまった]
[何をやるんですか?]俺は聞いた。
[掃除だよ。掃除。ほら、汚れてるだろ?]と窓から身体を離す。俺に覗けとジェスチャー。覗くと壁にゾンビがビッシリと張り付いている。壁が汚れてるのだが、まさかこの壁を掃除するのだろうか?
[壁ですか?]俺は聞いた。
[当たり前だろ。地面なんか掃除したらキリがない]
当たり前のように言った。壁も同じだと俺は思うが口には出さない。
[オモチャ見たいか?]男はニヤリと笑う。俺はうなづく。
[静かに歩けよ。寝てるからな]
男は志織を見ながらゆっくり歩いた。
階段を降りる。[ビックリするなよ]
と言いながらドアを開ける。
オモチャとは車とバイクの事だった。俺は大袈裟に褒めた。男は嬉しそうに[よし、お前のオモチャと交換してもいいぞ]と言った。
持ってるオモチャは小さなゲーム機しかない。それもシンプルな内容だし電池式。その事を男に言った。
[オモチャはオモチャだろうが]と男は屈託なく言う。交換成立なのか?
志織が起きて来るまでバイクと車の改造した話を聞かされた。彼の知識は凄かった。ギア比から重量計算、エンジン構造まで。
俺も知っとくべきなのだが、どうにも頭に入らなかった。男の話は次々と話題が飛ぶのだ。




