小説.30
二階の窓から部屋に入る。男はすぐにハシゴを上げ、鉄板をはめた。
倉庫だと思われる部屋。電気で部屋は明るい。
[暖かいお茶呑むか?なんだ?お前、怪我してるのか?]
男は俺の顔を覗き込む。
[ずっと独りなんですか?]
俺は話題を振り誤魔化す。
[おう、産まれた時からずっと独りよ。兄と両親がいるが、ありゃダメだ。ゾンビになってたら俺が真っ先に殺してやる]
男はペラペラと話し出した。俺が正しいのにいつも邪魔をしやがる。だの、のけ者扱いしやがってだの。果ては小さい頃に兄貴には買ってあげたのに俺には買ってくれなかった自転車の事まで話し出した。
情報が欲しいのではない。寂しかったのだろう。
[おい。薬持ってるか?]
俺はリュックから薬を取り出す。男は薬を色々と手にし、一つの風邪薬を開けると、ボリボリと食べ始めた。
[風邪気味なんだよ。栄養にもいいしな]
俺の視線に気付くと照れ臭そうに言った。多分、抗鬱剤の成分で入ってるのだろう。
[お前、俺を馬鹿にしてるな?]
俺の思考を敏感に察知したのか突然男は睨んで言った。俺は首を振る。志織が言った。
[ママも心の風邪薬を呑んでた]
[ママも風邪なのか。心配だな。そう、俺も風邪なんだ。心の。そう、風邪なんだよ]
[一粒落ちたよ。もったいない]
志織は言って渡した。睡眠剤。
俺は気付かなかった。男も気付かずすぐに口の中に入れる。
[俺は病人なんだぞ。誰も分かっちゃくれない。俺が正しいんだ。死んでもいいんだよな。なぁ?]
男はそう言い、銃を掴むと自分の喉元に当てようとする。俺は慌てて銃を掴み奪う。
[なんだ?俺を殺すってか?俺はまだ死なねぇぞ]
志織が男の頬を引っ叩いた。男も俺も呆然自失。[もう寝なさい]志織は言った。
男は何も言わずにその場に横になり、寝入った。
[ママと同じなの]
志織はそれだけ言って、お菓子の袋を開け食べ始めた。




