小説.29
志織が眠れない。と言うので、海沿いを歩き続ける事に。
俺は顔に包帯を巻く。長袖と手袋。リュックを背負う。これでゾンビと間違えられる事はないだろう。
女と女の子の二人連れ。まさか襲われるとは思えないが、万が一の為に志織にナイフを持たす。
会う人間は誰もが疲れきった顔をしていた。
露骨に武装している者もいた。
襲って来るのはよほどの好きモノか、殺しを快楽とする異常癖の人間だろう。
食料は店屋や民家を探せばまだある。
第一目的は安全な場所。
最上の願いは、大量の飲食物と薬。船と銃。ガソリンと弾丸。
だがランクを下げざる得ない。ガソリンなど要らない風力式のヨット。スリングショット。当面の食料、水。抗生物質。
スリングショット。ゴムで鉄玉を飛ばせる道具。弓矢より持ち運びがいいし、玉も地面に転がってる小石で充分。
水は川か井戸さえあればいい。
退屈な時間は筋トレでもすれば時間は潰せる。
適度なストレス回復。
ここら辺りは贅沢な望みになるだろう。
そんな事を考えながら俺と志織はひたすら歩き続けた。
途中で使える自転車、バイク、車に乗った。進めば進む程、放置してある車やバイクのガソリンは空だった。
ガソリンスタンドは電気がないので動かない。とあるガソリンスタンドではショベルカーで道路を掘った形跡があるものの途中で放置してあった。ショベルカーの燃料ゲージはゼロだった。
電気が無い。これほどまでに不便だとは思わなかった。
立ち寄る店の中の物もほとんど無くなっていた。オモチャ屋でさえ、電池という電池が全て抜き取られていた。
俺が考える事は誰かしら既に考えついてる事。
二階建てのスーパーを見つける。二階の一つの窓から灯りがついてる。
スーパーの壁際にはたくさんのゾンビがうろついている。
入り口や窓は全て、どこから集めて来たのか分からないが、鉄板がこれでもかと溶接してあった。これでは人間ですら中に入る事は難しい。
[おーい]
人間に初めて声をかけられた。
窓から男の中年が手を振っている。
[お菓子なら分けてやるから情報をくれ]
男が言う。手には望遠鏡と銃を持っていた。志織を見たが拒否する仕草は見られなかった。
俺は志織を後ろに隠し近付く。
[お前ら二人だけか?]
おれは、そうだ。と答える。男は望遠鏡で周りを見渡す。
[質問はその子が答えろ]
と男が言った。
[お父さんやお兄ちゃんはどうした?]
質問に志織が[最初からいない]と返事する。
死んだのか?。元々いない。
東京はやっぱりダメか?自衛隊とかいたか?。志織はうなづき、そして首を振る。
[お前らの武器はなんだ?]
志織はナイフを取り出す。それを地面に置けと言う。志織は置く。
[上がるか?]
男は言った。志織は俺を見た。俺は小さく首を横に振る。
[あがらない]志織は言った。
男は笑いながら[違いねぇ]と答える。
[正解だ。もう誰も信用出来ねぇ。だがな一回位は信じてみたらどうだ?それによ。他の人間にバレたくねぇんだ]
[何故私達なんだ?]俺は言った。
[そりゃ女と子供だからよ。子供はウソが下手だ。すぐ分かる。かと言ってババアはダメだ。平気でつけあがる。若い女?俺は色気には騙されねぇ]
俺は迷ったが上がる事にする。
俺が先に上がろうとすると、その子が先だと言う。志織はうなづく。先に上がらす。
[ちょい待ち。銃は置く]
彼はそれからハシゴを下ろした。




