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小説.28

ここら辺りの人のほとんどは既に船で逃げたのだろうか。港にはまだ数十隻の大小様々なヨットや船が繋いである。もっと多かったのだろう。

沖合には数十隻の船が浮かんでいる。逃げ切れた人達。


暗くなり、発光度合いでゾンビの数と人間の数をだいたい把握する。

海の底も淡く光っていた。海に落とされたゾンビ達。あの光の強さから海の中でも生きているのが分かる。

沖合いのヨットも光っているが、これは発光ではなくライトの光。人間が確実に乗っている。

懐中電灯の光が色々な角度で交差している。五十人以上の人間がうろついている。ゾンビは見える範囲で二百から三百。だからもっといるはず。窓からも多数の発光が見えてるので人間もかなり居る。

これだけの数の人間が居る割りに静かだ。


皆、ひっそりとチャンスを伺っている。


苦労して希望の場所に来たのだろう。そのチャンスは更に困難な場所にある。

捨てるに捨て切れない。


俺はどうする?諦めるべきか。諦めてどうするか?


突然、車の音。ぶつかる音。視界の一部が明るくなる。火の手が上がる。悲鳴。怒声。


法律の無い人間の世界。まさしく無法地帯。

ダメだ。諦めるしかない。まだ徒歩の方が安全だ。


どうせ行くあての無い人生だ。実家に立ち寄り、それから?


実家で暮らせそうならそこで暮らす。

二人で?志織は恋も知らず結婚もせず死ぬまで?ただ生き抜く為に。生きるだけの為に。畑のやり方は?鳥やタヌキをどうやって捕るのか?

生き抜くなら都会の方がいいのか?

缶詰は十年は持つ。では十年後は?


世界は本当に元に戻るのか?


船を諦めた瞬間、他の事も全て諦めてしまう。何に対しても悲観的になる。俺の悪い癖だ。


やるべき事を考えろ。もう一人の俺が言う。やるべき事を考えても、どうせ無駄だよ。もう一人の俺の言葉。ソイツの方が強い。


志織が言った。仕方ないね。歩こう。何とかなるよ。と。


[何ともならないよ]

俺は言った。言ってしまった。

[ごめん。何とかするしかない。って言えばよかった]

志織は言った。俺はその言葉に謝った。

謝るのは俺の方だ。ごめんね。そうだ。何とかするしかないんだよな。


志織は俺が矢で射られた時にかばってくれた。志織よりも強いのは俺だと思っていた。志織を守れるのは俺だと思っていた。

そして志織に励まされた。これ以上、醜態はさらけ出せない。


先の事は分からない。ただ志織を安全な場所に連れてく事。探す事。それからの事はその時にまた考えるべき。


今、やるべき事を考える。それ以上それ以下を考えても仕方ない。


人間を避けて歩いて実家に行こう。線路沿いを歩く。


実家に行けば土地勘はある。店も分かる。まずは無事に着く事を考える。着いてからは、着いてから考える。


港からまた爆発音が鳴り、部屋の中も一瞬明るくなった。

志織は頑とした顔つきだった。


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ゾンビサバイバル.番外編も書いてます。
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