現実.27
[ここから近い商店街は歩いてどれ位ですか?]
俺は聞いた。
[歩きだと遠いぞ。車で30分はかかるからな。それにもう、めぼしいのは無い。ゾンビも都会程ではないだろが、ここよりはるかに居る]
駅も遠いらしい。線路沿いを歩いて行けば大きな街に繋がる。自転車で行っても二日はかかるだろう。
[ここら辺りでは他の人達は居るのですか?]
[分からん。多分もう居ないだろうな。元々この部落は二百人も居ないんだ。過疎地だからな。若いのは皆出て行って帰って来ない。残ったのはジジババ達だ。それもこの三年で心労や病気でほとんど亡くなった]
[自殺したんもおるけ]
ツトムさんは、なまった言葉で付け加えた。
最先端の文明社会から一気に最低の、それも経験した事のない世界に変わった。
生き延びても仕方ない。死んだ方がマシ。という気持ちは理解出来る。
俺も志織が居なかったら、どうなってたか分からない。
今の人間はただ生きるだけではダメなのだ。幸せとは思えなくなってる。贅沢なのかは分からない。
昔は生き延びる為に生きていた。それが当たり前だった。今は目先の楽しみか、何かの理由がなければ生きてる価値がない。そういう考えが当たり前になっている。
[酒盛りやるけどどうだ?]
ツトムさんは言った。俺は首を振る。疲れたので今夜は寝ます。志織をよろしくお願いします。と答えた。
[後で飯を持たせる。遠慮なくもらうぞ]
ツトムさんは荷物を見て言い、俺は頭を下げた。ツトムさん達は帰って行く。
多分、今夜はもう外には出ないのだろう。コンビニのゾンビを何体か離しとかないといけない。共喰いし始めるからだ。
ゾンビの数が少ないのも困りモノだ。
書いた小説の手直しをしていると志織が来た。
[どう?]
二人同時に口を開いた。志織から口を開く。
[平和でいいわ。拍子抜けする位。皆退屈してるのね。私起きてから今までずっと喋り通しだったわ。ね、これ私食べていいよね]
持ってきた食事の事。俺はうなづく。志織は食べ始める。俺が話す番。
[当分、飯は志織が持って来てくれ。捨てるのはもったいないからな。荷物はほとんどあげちゃったよ。ゾンビが増えてない。どこからか連れてくるしかない]
[ねぇ、ずっとここに住むの?]
志織が唐突に言って来た。
[住みたくないのか?ここは今までで一番安全な場所だよ]
俺は意外に思った。志織は気に入ってるのだと思った。
[いや、なんかね。ホントに拍子抜けしちゃったの。だって安全な場所なんて絶対にある訳ないと思っていたから。ヒロと死ぬまで旅して終わりな人生かと覚悟していたの]
俺はちょっと嬉しかった。が顔に出さず、
[なら、当分ここに住もう。志織がイヤになるまで]
[ねぇ、ちょっとは嬉しかった?]
茶目っ気な笑顔で志織は言った。俺はあいまいにうなづいた。
俺はポストの話に話題を変えた。
俺に何か用事があるなら手紙を。と。
志織は直接言いに行くからいいよ。と答えた。
[皆待ってるから戻るね]
志織は立ち上がりながら言った。
[小説たくさん書けるね。書いたら見せて。面白いから]
志織はそう言って帰って行った。
そうか、面白いか。
俺は志織の後ろ姿を見ながら思った。
しばらく、道路の向こう側を眺める。耳をすます。神経を張り巡らす。静か。
三浦家の方からも何も聞こえない。
俺は小屋に戻り携帯を開く。
そういえば、最初のデパートに宝石店があった。全くの手付かずだった。集めてどこかに隠しとくべきだったか。あれから色々な宝石屋とかあったが、一粒としてなかった。だが、それが役に立つ時は来るのだろうか?
俺は続きを書き始めた。




