小説.21
翌朝、志織はいつも通りだった。
昨日の事を無かったかのように振る舞ってる。
さて、どうしたものか。俺もなかったかのように接するべきか。と考えてた時、
[地震?]
志織が口を開いた。と同時に遠くから地鳴りのような音。
かすかな振動。俺の身体では感じないが、ホテルが揺れてる。
二人で外を見る。ビルとビルの間から黒煙。煙しか見えない。
[車じゃない?]
志織の言葉。たくさんの戦車が走ってる音。国が救援に来たのかもしれない。
屋上に行き、音のする方を望遠鏡で覗く。
戦車ではなかったが、ショベルカーやブルドーザー、ダンプカーなどの重機が何台も続いて道路を進んでいる。その背後から、かなりの黒煙が舞い上がっている。
ダンプカーの荷台にはたくさんの人間がいる。大型バスが一台。そのバスの中にも屋根にも人が乗っている。
国が救助に来てくれたのかと思ったが、運転手は自衛隊や警察官が着てるような服ではなく私服だった。
[どうする?]
志織は言った。助けてもらうべきか。そうなると俺はどうなる?
せめて志織だけでも。でも昨日の事がある。物凄く悩む。
[俺はこんな身体だ。多分助けてくれないだろう。志織だけはイヤだろ?]
こんなセリフしか言えなかった。
ブルドーザーは車をどかしながらこちらに向かって来る。このままだと目の前の道を通り過ぎる。
志織は黙ったまま。
俺の本心は志織と一緒に居たい。俺の方が志織を守ってやれる。
言いたかった。言えなかった。
だが、大勢の人の中に居た方が俺といるより安全だと思う。
煙が一層大きく立ち上がった。
一番後ろのダンプカーから灯油かガソリンを撒き散らしゾンビを燃やしているみたいだ。
燃えながら歩き続けるゾンビ達。
ダンプカーの後ろからたくさんのゾンビが群れをなしている。千人か二千人か。ゾンビが道路を埋め尽くしている。見当がつかない。
途中で先頭のブルドーザーが止まる。邪魔な大型車をどかそうとしてる。後続車も止まる。
ゾンビは車の横や前にも近寄る。群がる。
おぞましい光景。
ブルドーザーが進んだが、何台か後ろの大型バスが動かない。タイヤのスリップ音が響く。進まない。バッグも試みてるが動かない。車輪の間にゾンビの血や肉が挟まり滑ってるみたいだ。
後ろのダンプカーが前の動かそうとしてる大型バスを押す。
反動で大型バスの屋根に乗ってる数人が転がり落ちる。それでもバスは動かない。
ショベルカーが大型バスの周りのゾンビをどかす。潰す。持ち上げる。だが数が多い。
まるでカブトムシに群がる大群のアリのよう。
火ダルマのゾンビがダンプカーに辿り着く。
ダンプカーはバッグし、ゾンビを轢いて行く。
阿鼻叫喚。久しぶりに聞く志織以外の声が叫び声と助けを求める声。
先頭のブルドーザーだけが先に進んだ。見限ったのか。もしくは先の道を造る為にか。
志織の返事を待つ必要はなかった。
多分、大半の人間は死ぬ。焼かれるかゾンビに喰われるかで。
この場所を移動する事を考える。
ホテルの前は他の場所よりもゾンビが多くいる。それでもダンプカーの後ろにいるゾンビとは比にならない。
裏口から出る。荷物もそのまま。仕方ない。
パンと言う音。多分タイヤが破裂した音だろう。更に大きな爆発音とガラスの割れる音かま聞こえた。放置してある車かバイクが炎上したのだろう。




