現実.23
ミズホさんは聞き上手なのか、俺が話をしたかったのか分からないが、けっこう夢中になって話をしていた。男達が起き出して来るまで気付かなかった。
ツトムさんが眠そうな顔をしてやって来る。一瞬、不機嫌な顔。ひょっとしてミズホさんに気があるのかも。それは考え過ぎか。寝起きのせいの可能性が高い。
[今ね、ヒロ君に色々話を聞かせてもらってたの。凄いわ。彼と志織ちゃん]
屈託無く言ったミズホさんにツトムさんはうなづいただけだった。
[ヒロは何が出来る?電気関係とか建築とか生活に関する事でだ]
ツトムさんの言葉。それは聞かれるだろう質問だった。俺がツトムさんの立場でも聞くだろう。役立たずのタダ飯食らいは置けない。そんなに甘くない世界なのだ。
俺はここに住みたいのか住みたくないのか答えが出ないまま、
[ゾンビの扱いなら自信があります]
と俺は言った。住みたくなければ、何も出来ません。と答えるはずだ。俺はここに住みたいみたいだ。志織がその気だから?
[ゾンビは人間が見つからないと自分より弱いゾンビを襲って喰べます。ゾンビの補充は自分一人で出来ます。他の皆さんの感染や怪我のリスクが無くなります]
言葉は淀みなく出てくる。俺は住みたいのか。
番犬代わりのゾンビ集め。普通の人間ならやりたくないだろう。噛まれたら死んでしまう。掴まれただけで大怪我を負う。
[一番キツイ仕事が出来るんだな。なんでやれるんだ?]
ツトムさんが言った。他の人はキツイ仕事だろうが、俺は願ったりだ。
[俺はヤケドをおい、素手すらもさらけ出せない。志織も面倒見てもらうとなると、一番キツイ仕事をするしかない]
俺の言葉にツトムさんは考え込む。ミズホさんが、そんな危険な仕事、まさかヒロ君だけにさせないわよね。と同情の声をあげる。
[ヤケドが膿むと匂いがキツクなる事があるんです。小さな見張り小屋を作ってくれたら、俺はそこに見張りをしながら住みます]
別に高台じゃなくてもいい。道路の脇にでも住まいがあり、伝達方法さえあれば。思い当たるのは花火。
[見張り小屋が無理なら下の家にでも住みます。誰かが来たら教えます]
[どうやって教えるんだ]
[ロケット花火が少しあります。人間とか、危険な時に打ち上げます]
俺は独りの方が気楽でいい。志織の面倒をみてさえくれれば。暇を潰す方法はこの三年で色々覚えた。これだけ言えば、イヤとは言わないだろう。
[コンテナハウスがある。それでいいなら。ゾンビの方は手伝ってもらう]
[大丈夫です。俺一人の方がやりやすいです]
[怪我しても死んでも自己責任だぞ]
[分かってます。でも大丈夫です。今までずっとゾンビを相手にしてましたから]
俺の言葉に三浦さんはそれ以上言わなかった。
ツトムさんは三浦家を守る事が仕事。ゾンビ捕獲は赤の他人に任せたい心情もあるはずだ。
[歓迎会とかはないぞ]
それだけ言ってこの場を去った。
ミズホさんは、ごめんなさい。と俺に謝った。大変な仕事をさせられると思ってるのだろう。
[謝る必要はないですよ。本当にゾンビ相手は得意ですし。むしろ人間の方が怖いと思ってますから]
冗談のつもりで言ったが、ミズホさんは笑わなかった。
[そうかもしれないわね]
ミズホさんは真顔で言った。
[とにかく、志織の事だけはよろしくお願いします]
俺は頭を下げた。




