現実.18
[二人だけか?]
三十歳位の男が遠くから話しかけた。
それ以上は近寄って来ない。
[そうよ]志織が答えた。
[何が欲しい?]男が言う。
[野菜と情報]志織の言葉。
俺は俺に質問されない限り話さない。志織が答えた方が安心感を与える。
[兄弟か?]男だけが少し近付き尋ねた。
[そうです]
[それは何だ?]
[お酒と煙草]
男は戻り、他の人達と話す。気配や雰囲気は悪くない。多分受け入れてくれる。
全員が近付いて来る。
[怪我してるのか?]俺に聞いてくる。
[三年前に全身に火傷しましたが今は大丈夫です。治療中です]頭を下げながら俺は答えた。
何人かが道路の方に行く。俺達以外に誰か居るかを確かめに行ったのだろう。
[何歳だ]男は志織に向かって言った。
兄弟と言ったのは失敗かもしれない。
多分、このグループに若い女が居ないのかもしれない。
[十三]志織は答えた。志織も何かを感じ取ったのか嘘をついた。本当は十五歳。
[お前は?]
[二十一歳です]本当は二十五歳。
[ずっと二人で生きていたのか?]
志織は頷き、俺は返事をした。
[どこから来た?]
[東京から]
[東京では住めないのか?警察や自衛隊は居るのか?]
男は俺に聞いてくる。
[どこかしこゾンビと腐った死体だらけでとても住めません。警察や自衛隊も今まで見た事ありません]
都会には住もうと思えば住める。だが永住は無理だろう。
[聞きたい事はあるか?]
[食料は自給自足ですか?]
[野菜。それに少ないがニワトリと牛がいる]
[野菜を分けていただきたいのですが]
そう、志織には必要なのだ。生理がこなくなって一年が経つ。ストレスもあるだろうが、明らかに栄養不足。今は大丈夫でもいずれ身体に何かしら影響を与えるだろう。
[野菜位ならいいだろう。来い]
他の男が地面に置いたウィスキーと煙草を拾う。
俺はため息を一つ吐いた。
歩きながら質問した。
[貴方の住む所は安全ですか?]
[安全にしたいとは思っている。ゾンビは大丈夫だが悪い人間なら難しいな]
やけに曲がりくねった道。竹やぶの山に道を作ったのだろう。両脇は竹がビッシリと繁っていた。
少し歩くと両脇に五、六体ずつゾンビが鎖で繋がれていた。人間対策だ。ゾンビを持ち帰る理由が分かった。
道の真ん中に小さなコンテナ。
先に数人がコンテナに入る。コンテナを叩くとコンテナは動き始めた。
地面にレール。車輪でゴロゴロとコンテナは動き出す。向こう側で引っ張っているのだろう。
[夜に来られたらダメだがな。それでも充分効果はある。番犬みたいなもんだ]
男は説明する。多分、この男の発案なのだろう。
どうやら電気は無いようだ。
男は察したのか、自家発電機はあるがいざという時にしか使わない。と言った。
[車は?]
質問し過ぎか?俺は言ってから思った。
この男は自分のミスや出来ない事を許せないタイプだ。自信はあるだろうが、痛いところを指摘されたくない性格。だから先にゾンビは夜、使えない。という事を言ったのだ。プライドが高い。つまり自分より賢い人を好まない。
正義感やモラルは人並み以上にありそうだ。だが正義感は時として残酷さや独善主義者に変わる。




