現実.17
志織はまた寝た。最初の頃に比べると格段にタフになった。
俺は考える限りの事を考える。小説は二の次。
朝日が出てくる。今日も快晴。
志織を車の上に上がらせて朝ご飯。好きな物から目一杯食べてもらう。
これからどうなるか分からない時はいつもそうしている。
志織は肉の缶詰から開け出す。
俺は志織にゾンビを近寄らせない為に車の脇に立つ。ゾンビはずっと志織を見上げてる。
俺は足、腕、首回り、そして顔にも包帯を巻く。
事故で全身火傷をおった怪我人という事にしている。目の周りにファンデーションを塗る。なんとか人間の肌に近付ける。汗をかかないから助かる。手袋をはめる。
言葉は話せるし、ゾンビのような緩慢な動きでもない。
最初に人間なんだと信じてもらうしかない。
全身火傷をおった病弱な男と女の子。
善良な人間なら間違いなく同情してもらえる。
悪人なら、俺を殺し志織を犯し、荷物を奪うだろう。
ただし俺がゾンビだと分かったら善良な人間でも殺す選択を考える。
荷物と荷台はそのままにし、リュックに煙草とウィスキー。少し悩んだがお菓子も詰めた。
嗜好品や甘い物は喜ばれる。俺と志織は吸わないし呑まない。お菓子は志織が食べる。
コンビニにゾンビを全て詰め込んだ。
ガラスが割れたらそれまでだが、ゾロゾロとついて来られると警戒される。
俺の肌の露出が無いから志織を背負える。
地図を見ながら五キロ程歩く。見なくても一本道だった。
右側に舗装されてない道路。素人が作ったブロックとフェンス。フェンスには鍵。そして立ち入り禁止の看板。
ブロックの脇の竹やぶから通り抜ける。
道路には深さ五十センチの横溝が数本。多分、車の通行を防ぐ為だ。バイクで通るのも難しい。
何かを引きずった跡がある。多分、鉄板か硬い木材だろう。
車があるという事だ。車を通す時に溝をふさぐ為の鉄板。多分。
進むと道が二つに別れている。右の道にまたフェンスと看板。
これより関係者以外立ち入り禁止。生命の保証は出来ない。
英語、中国語でも書かれていた。
あからさまに右の道の方に行くように仕向けている。ワナか何かがあるのだろう。
地図の印は北側。つまり左の道。
本当なら一回コッソリと偵察したかった。何人居るのか、せめて良いグループなのか悪いグループなのか。
これ以外にも罠みたいなモノがあるに違いない。進むべきか悩む。
まだ九時にもなっていない。
毎日見張る事はそうそう出来ない。
全員寝ている可能性が高い。高いが絶対ではない。
志織に目を向ける。
俺は引き返したい。
大きな道路ですぐ逃げられる場所でまた人が出て来るのを待ちたかった。
もうここはすでに相手のテリトリー。不利だ。
志織も考えている。おもむろにアイパッドをポケットから取り出しボリュームを最大にした。
誰かが音楽に気付けばやって来るだろう。
俺はリュックから適当に煙草とウィスキーを取り出し見えるように道路の真ん中に置いた。
二人して地面に座った。
[ゾンビをどうするのかなぁ]
志織は言う。
[たくさん必要みたいだが、なんだろうね]
本当に何に使うのだろうか。
人力で電気をつけるのか。
[浩二君って何歳位だろうね]
志織の言葉にピンときた。浩二君の友達だと偽ればいい。全く気にしなかったから思いつかなかった。
[浩二君の家に戻るか]
そのアイデアは使える。少し浩二君の事を調べとこうと立ち上がった時に左側から人が来た。十人位。手にはクワや棒。バット。
弓や銃は見当たらない。隠し持ってるのかもしれない。
俺と志織は両手を上げて敵対しない意志を示した。




