34/262
小説.20
[もう寝ないと]
俺はそう言って部屋から出ようとした。とてもじゃないが、いたたまれない。
[ねぇ、助けてくれてありがとう]
志織は小さい声だがはっきりと言った。
今まで一度も言われてない。
ずっと言いたかったのか分からない。だが勇気を振り絞って言った。そんな真摯な言葉に聞こえた。
俺は言ってしまった。
[俺はこんな身体になってしまった。志織が居ないと人間に出逢った時に殺される可能性がある。だから俺には志織が必要なんだ]
多分、これが俺の本心なのだろう。
必要だから見限らない。見捨てない。裏切らない。離れない。
志織は黙ったままだったが、さっきまでの固まった雰囲気はなくなっていた。
[病気になったら困るから寝なさい]
俺は言って廊下に出た。
理に適った事だけが信じられる。理想論や感情論はこの世界では通用しない。
邪魔なんかじゃない。
道路のゾンビを見下ろしながら俺は呟いた。




