小説.17
ホテルから一歩も出ずに十日が経った。
引きこもる前にたくさん持って来た本は読み尽くし、ゲームも飽きてしまった。
寝なくて済むから一日二十四時間、まるまる時間がある。寝れば時間経つのも早いのだが、眠気は全く訪れず、目をつぶったままでいられるのも一時間が限界だった。
お腹は全く減らないし、身体も弱まってはいない。ただゾンビに襲われるようになっただけだ。毎日ホテルの入り口に立ってみた。三日目にはゾンビが俺を喰おうと集まりだした。
七日目には目につくほとんどのゾンビが集まりだした。
[図書館近くにないかなぁ?]
俺は志織に聞いた。
[学校にあるよ]
凄くシンプルで的確な答え。志織は計算ゲームをやっている。
[算数好きなの?]
[別に。でもやっといた方がいい事はやっておくの]
志織の答えに俺はにやけた。このしたたかさこそが活きる知恵なのだ。
俺もやれる事をやろう。
廊下からゾンビを観察する。周りのマンションやビル。店舗を観察する。
外で活動するなら夜の方がやりやすい事に気付く。夜は喰べないゾンビがほとんどだ。喰べてるゾンビも居るのだが、見える範囲で一体。滅多にいない。
人間、志織は難しい。真っ暗であまり見えない。オーロラで照らされてもだ。
飽きると廊下でオノを投げる練習。マットを立てて投げ当てる。多分、種類が違うのだろう。刺さらないので諦める。
左胸が腐ってきている。多分腐敗臭も出てるだろう。食べなくても…何も摂取しなくても腐敗物は出るらしい。
[学校へ行って来る。しっかりとチェーンロックもかけとけよ]
ベッドに入って本を読んでる志織は何も言わなかった。言わなくてもやるだろう。
何も喰べずの十一目の夜。外に出てみる。ホテルの反対側から少しだけ見えた校舎。その小学校に行くつもりだ。その前に摂取と新しい服に替える。世界が変わってからまだ十五日目。
ゾンビから出る腐敗物以外に散らばった死体も腐ってきている。
もっと早く気付くべきだった。
真夜中、オーロラ明かりの下。耳をすます。聞こえるのは、ゾンビの唸り声とゾンビの歩く足音。
俺はため息をついた。何もかもが一気に変わった。
視界はもちろん、聴覚も。騒音が無いのだ。都会で育ち暮らしてた人は慣れないだろう。
俺は田舎育ち。夏はコオロギや虫の声でやかましいが、冬は雪が降れば静か過ぎるほど静かになる。
デパートに入る。どうせ汚れるのだからと服を脱ぐ。左胸だけアザだらけのような内出血したかのようにドス赤黒くなっている。白い肌の方がまだマシ。
触ると腐った生肉のようだった。こそげ落とす。黄色い脂肪は見えず神経が剥き出しになる。
触ってみるが柔らかくはない。何重にも巻いたサランラップか柔らかいプラスチックを触ってる感覚。
ゾンビを殺し摂取し始める。人間が見たら卒倒するだろうな。そんな事を思いながら、ひたすら口の中に細切れにしたゾンビの肉を入れ続けた。
胸元までなくなったゾンビ。手足がまだ弱々しくも動いてる。生きている。腹を割き、近くの死体の頭をそのまま入れてみた。理屈ではこれで生き返るはずだ。
ガムテープを探し、外れないようにお腹と頭を固定した。
これで頭が再生されたら、口以外からも摂取できる。
もし再生し動き回っても分かるように足にテープを巻いた。力があるから縛っても無意味。
他のゾンビに喰べられないようにロッカーの中に放り込んだ。
血まみれの身体。身体を洗い適当な服を着込み、釘抜き棒とリュックを売り場から持ち出し学校へ向かう。




