小説.13
ゾンビは人間の死体を喰べる。生きてる人間も襲う。ゾンビにも襲う。自分より弱いゾンビを。でもホテルの部屋に居たゾンビは互いに喰いあわないでいた。
俺はお腹が空かない。人間を襲おうとも思わない。食べようとも思わない。俺はゾンビじゃない。
また今考えなくていい疑問が浮かぶ。
頭を振る。やるべき事。ヨシオの部屋にある本やサバイバルグッズを貰う事。
それが、終わったら食料と飲料水の調達。拳銃の回収。
猫は大丈夫そうだが犬は?もし襲ってきたら?
目先の考える事、やる事はたくさんある。
ヨシオのアパート。鍵がかかっている。
外にあった消化器でドアノブを壊す。
先に軍手をすればよかった。手の平がまた剥けた。
ヨシオの部屋に入る。何度も遊びに来た部屋。懐かしい。もうあの頃には戻らない。
懐古する場合ではない。
防刃コートに防刃シェラフ。本。頑丈な登山バッグ。スタンガンもあった。防犯ブザーも何個か。
リュックに入るだけ詰め込む。
エアガンとかありそうだが見つからなかった。
本が一番役に立つだろう。
帰りに拳銃を取りに行くどうかを考えながら部屋を出た。
結局、ヤクザの争った場所に行った。
人間は居ない。ゾンビだけがたくさん居る。
一つの遺体に十体くらいのゾンビがしゃがみ込み喰っている。
転がってる拳銃は見つからない。見あたらない。
誰も俺を見向きもしないが、近寄っても来ない。が、ゾンビ達が俺の方を向いた。俺は驚き後ずさる。突然後ろから発砲音。と共に俺の背中が一瞬押された。
背中を撃たれたのだ。痛みが全く無いからよく分からない。
振り返る。ヤクザがまた俺を撃った。
ハゲていて大柄の迷彩服を着てサングラスをはめている。歳は若く見える。パッと見、暴力担当。ボディガードと言われても通用しそうな位、ガタイがよかった。
生きてる人間はもう居ないと思い込んでいた。
[ちょっと待ってくれ。俺は人間だ]
肺をやられたのか、濁音の入った言葉しか出なかった。再び撃ってきた。
額に衝撃があった。
近くのゾンビはそのヤクザを襲おうとしない。むしろ俺の方に近寄って来る。何故ヤクザを襲わないのか?欲を出したからか?でも拳銃は必需品だろ。志織はどうなる?猫はどこ行った?ヨシオの所に行かなければ。行ったじゃないか?
色々な思考が浮かび上がる。訳が分からなくなる。ほつれていく思考の糸をたぐる。
痛みが無い分よく分からない。
目に血が入り景色が濁る。撃たれたのだと確信。
我に返る。ゾンビの顔が目の前に居る。俺を喰べるつもりだ。それが分かった途端目の前が真っ暗になり、意識が無くなった。




