現実.156
志織やダビデやタオ。カーリーのエイやシンもそうなのか?
志織が隣に来て俺の腕をソッと触った。
近づいたのに気付かなかった。また俺は自分の世界に入っていた。どうかしている。俺は頭を振った。今考えても仕方ない事。つまり無意味な思考。
[志織は戦うのか?]
俺は小声で聞いた。
[ヒロも強いわ。戦って欲しい]
意外な答えに俺は驚いた。
[無理だろ]
ダビデの本体とパペット。タオ。その三人を相手に。
どうやって勝てるというのか。
[普通は無理ね。でもタオが来るなら勝ち目はあるのよ。戦ってるのを見たら分かるはずだわ]
志織の発した言葉には必ず何らかの根拠がある。
単なる励ましや慰みは言わない。ましてこの土壇場にきて言うはずがない。
[どうやって?]
[言葉で説明するのは難しいわね。でも見たら分かるはず]
[戦い方を見ればいいんだな]
[考えるのは得意でしょ]
志織の答え。得意ではない。勝手に考え込んでしまう。
ダビデとタオの戦いに勝機がある。志織はそう捉えてる。
志織は何本かの尖った棒を俺に渡した。
バーベキューの串のような棒だった。志織の武器。
[松果体に刺したら終わるわ]
再び、そばに居た十数人が走り出す。と同時に志織が[来たわ]と言った。
首をあげて向こう側を覗く。
俺の思ってたタオではなかった。以前のタオは背が高く細かった。中国拳法の使い手と思うような格好だった。
実際に現れたタオは大柄のフットボール選手のようだった。
タオのパレットだった。本体はどこに?
[食ったのね]
志織が言った。一瞬考えたが答えが分かった。
本体。シェーリーのタオは自ら死んでパペットに乗り換えたのだ。シェーリーのパーティクルをパペットに移した。
スポーツカーから大型四輪駆動車に乗り換えた感じだ。
何人かが吹っ飛ぶのが見える。タオはポピュレーターを殴り蹴り飛ばしている。ポピュレーター達がマネキンのように軽いのかと錯覚しそうになる。
タオの足のスネには刃のついたショルダー。腕にも同じ。コブシには鉄のナックル。
肩や胸にはラグビーの防具のような物を着込んでいる。刃物や鉄パイプが身体に当たるもタオの動きは止まらない。鉄製の防具と分かる。
重戦車。
これとどうやって戦えというのか。
志織はまだ動かない。ダビデも動かない。俺は動けない。




