現実.155
ダビデは、山のように積み重ねてある死体から武器を物色していた。他のポピュレーター達も光が強いが、ダビデはそれ以上だった。いったいどれくらい殺してきたのだろうか。
カーリーにはなっていない。
カーリーになっていたら誰も生きていない。
志織が言っていた。カーリーは誰彼構わず近くのパーティクルを全て吸収してしまうと。
ダビデが立ち上がって遠くを見て言った。
[来るぞ。あと十キロほどだ]
[一人か?]
近くのポピュレーターが聞き、ダビデはうなづく。
ダビデは十キロ先までパーティクルの気配が分かるみたいだ。いや、もっとかもしれない。それくらいパーティクルを回収してるという事か。
周りのポピュレーターが死体の山から死体を拾い喰べ始めた。他のポピュレーター達もそれに続く。
生きてるポピュレーターと死体の山。明るい発光のせいで、まるで一つの大きな塊のように見えた。志織も喰べ始めた。
俺も摂取する。俺は闘う為ではなく逃げる時の為に。
俺だけ違う。志織はどうだろうか。
ここでの俺は、戦場にいる小さな虫と同じ。相手にされないから殺されはしない。ただ巻き添えを食らい死ぬ。
現にダビデは俺を全くみない。タオの動向を探ってるのか。一点を見つめてる。
鳥が一羽、空を飛んでるのに気付き、俺は思わず空を見上げた。
鳥は近くのビルの屋上に止まった。その上に太陽と白い雲。その一画面だけ切り取れば平和な世界。目を降ろすと、死体を喰べて血まみれのポピュレーター達。手にはナイフや鉄棒。カタナを握ってる。
その画面内が俺の現実。
ドサクサに紛れてダビデを殺せるか考えるが、殺してもタオがいる。他にも五十人ものポピュレーターがいる。ここに居るのは生き残ってこれた者達。当然強いはずだ。
俺は逃げ道を探す。マンホールの蓋を何ヶ所。開いているビルのドア。何箇所か見当をつけておく。
十人位が我慢出来ないのか、計算なのか走り出した。逃げ出す走り方ではない。倒しにいく走り方だ。タオの姿はまだ見えていない。
数分後に争う音がかすかだが聞こえてきた。車にぶつかった音や、ガラスの割れる音。悲鳴は聞こえない。怒声も罵声も聞こえない。
静かになる。
誰もダビデを見ない。タオの居る方向を向いている。誰もがタオを本気で倒そうとしている。
味方の為とか、ダビデの為とかではなく、パーティクルを回収する為に。
この雰囲気を見てると、長生きする為とは思えない。
ダビデがカーリーになった瞬間から問答無用で吸収され死んでいくのに。
名誉とか誇りとかの為なのか?
俺には分からない。
AZの為。指は何の為に生きる?肺は何の為に?各々の役割の為に。ポピュレーター達は意思を持ってるが役割を果たすのが優先なのか。
役目は一つ。パーティクルの回収。




