現実.154
近くの車からドンという音と共に志織が突然、俺の方に走り出し俺を押した。バランスを崩した瞬間、ダビデのパペットが砂煙りと共に目の前に現れた。
フードを鼻近くまでかぶっていたが、背の低さで分かった。なによりも雰囲気が他のポピュレーターとは違っていた。志織が俺の前に立つ。
フードを下げた。明るく発光しているのではっきりとした顔立ちが分からない。
一気に戦闘になるのか?
無意識に、逃げる先を探す。
[タオが来る。お前が呼んだのか?]
声質は子供の声だったが言い方は有無を言わさない口調だった。
志織の握りしめていた手が緩む。俺は指の緊張を解いた。とりあえずは戦闘にはならない。
[仲間はどれくらい?]
志織はダビデの問いに首を振ってから聞いた。ダビデは少し沈黙。志織の言葉の真偽を探ってるのだろう。
[五十人も居ない]
[増やせないの?]
[増やしても無意味だ]
多分、数を増やしても弱いのだろう。
[お前はどうする?]
ダビデは俺の方を見て言った。
[志織の言う通りに]
[自分の意思は無いのか?]
ダビデは意外だと思ったのか?俺はあいまいにうなづく。
それ以降、俺に話しかけてはこなかった。
多分これで完全にダビデの思考から俺の存在は小さい存在になってる。
つまり完全に相手にされてない。
悔しくはない。拗ねてもいない。
油断させる為に。
俺は志織と生き延びる事さえ出来ればいい。
しかし、タオが何故?
答え。タオもカーリーになる為に。
ただでさえ大変な時にタオまでもが。
タオがダビデを倒してくれるなら、ダビデのパーティクルが外れるから逃げ切れる可能性が高まる。
三人で本体のダビデの所まで走り続ける。
先頭のダビデ。走る一歩一歩の幅が長い。さながらジャンプしながら走ってるようだ。
俺の腰くらいの身長。手の届く所にダビデの後頭部。銃を撃てば当たる距離。だが無理だろう。銃を握った瞬間、返り討ちにされる。
志織をチラ見する。普通の表情。ただ前を見て走ってる。
俺の視線は気付いてるはず。でも何の変化もない。今は何もしない。という事だ。
俺は俺の考えに戻る。
ダビデにタオ。どちらが強いのか?共倒れになる事を望むが、それは無いだろう。
ダビデとダビデのパペットの二人攻撃は強いはずだ。
志織はどうするのか?俺はどうしたらいいのか?
絡まった未来の糸に更に糸が加わり絡まった。ほころびすら見つからない。
本体のダビデの姿が見えた。周りには四、五十人の赤く発光したポピュレーターだけ。
他の色のポピュレーターは見かけない。
多分、タオ待ち。




