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現実.151

汚れは落ちだいぶマシになった。

やる事がなくなる。暗くなれば多分、どこかが明るく見える。そこが陸だろう。見えなかったら適当に漕げばいい。

水平線を眺めていたら[月が昇る方から来た]

と志織が言った。お互い無意識に陸に向かう事を考えてる。このまま海に漂ってはいられない。


神々しいほどの赤い夕焼け。キラキラと水面が眩しい。こういう自然を眺めたのはいつの事か。思い出すのは全て志織と出逢ってからの事。ホテルから見た初めてのオーロラ。病院に向かう途中のバイクから見えた景色。学校の屋上から見た朝日。冬籠りした時の雪景色。三浦家の隙間無く育った竹藪。

全てそばに志織が居た。しばらく水面を眺めていた。志織の動きで我に帰る。


[また前みたいに旅しようね]

小さな声だったが重みがあった。志織の本音だ。俺も重くうなづいた。


[ダビデに聞いてみよう。俺達が勝手に考え過ぎてるのかもしれない]

考え過ぎは、思い込みになり肥大する。勝手に話を大きくしたりする。全ては憶測や推測だ。

[ダビデから直接聞いたわけじゃないんだろ?]

志織はうなづく。

[なら可能性は残ってる。確定じゃない。交渉の余地や、そもそも仲間から回収しないかもしれない。要はダビデがカーリーになればいいんだろ?]

ダビデの欲する物。カーリーの地位。

[質問してもすぐには回収しないはずだ。強いからと言っていつでも志織を殺せるとは思えないし]

もちろん、この考えも憶測にしか過ぎない。だがただ何もしないわけにもいかない。志織は無言。反対ではないという事だ。

[とりあえずダビデの元へ]

俺は立ち上がり思い切り跳んだ。だが陸地らしきものは見えなかった。月が昇るのを待つしかない。


[これが終わったらどこに住もうか?やっぱ日本かな?]

沈む太陽を見ながら俺は言った。

[色々な国に住み家があるわ。船もあるの。たくさん美術館を周りたいわ]

志織の珍しい欲望。明るく考えようとした俺に合わせてくれてる。

欲望という名の希望。ただ生き延びるだけだった今までに明確な目的が出来た。

[今まで芸術とか無関心だったけど観たくなったよ]

俺は笑って言った。志織が色々と教えてくれるだろう。時間はたくさんある。ありとあらゆる美術館を観て周ろうと思った。


月に向かってゆっくりと俺達は漕ぎ始めた。



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ゾンビサバイバル.番外編も書いてます。
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