現実.149
俺が放つ光は弱い。そのせいかあまり敵に襲われない。もちろん襲われないようにしてるのだが、志織達に向かっていく。
志織やパルもトニも立ち止まる事は数秒もなく戦い続けてる。
楽しんでもいない。悲観もない。黙々と歩き続けてるように、ひたすら殺し続けてる。
俺だけ一人冷めてるような感覚。
ダビデと合流しようか。その方がいいような気が。
と思ってた時に背中からお腹を斬られた。
油断した。いつの間にか背後に敵がいた。俺の身体は真っ二つに斬られた。
身体が転がり落ちる。志織。と叫びながら、そのまま転がるように志織に近寄る。志織が矢のように近づくのが視界に入り、志織の剣が俺の首を斬るのが分かった。意識が薄れてく中で、志織の肩と背中に剣が刺されくのが見えた。
俺は胴体がないのに背中に鳥肌が立つような感覚を感じ、顔から血の気が引くのが分かる。そして意識が飛んだ。
身体が揺れてる事で意識が戻る。それから目が開かない事に。身体も動かない事に気付く。右を向こうとした瞬間また意識を失った。
下に落ちてく感覚に気付く。すぐに空に昇ってく感覚。横たわってる事が分かる。身体は動かせた。俺は起き出す。まぶたが開かない。指で目を開ける。眩しい光で手を離す。ゆっくりと目を開ける。目の前に志織。その後ろに海面。
揺れていたのは船の上だと分かった。そして全てを思い出した。
[どうなった?]
俺の最初の疑問が口から出る。志織と俺は生きてる事だけ理解できた。
まぶたが重い。重さを感じた事に驚く。
船が波で下がりバランスを崩し再び仰向けに倒れる。
白い雲が視界に入る。この場面だけなら平和な世界だと、ふと思った。
横になり起き上がる。志織が手助けをしてくれる。
志織が大丈夫だった事に安心する。と同時に申し訳ない気持ちが湧き上がる。
俺のミス。余計な事を考えた。集中力が切れてた。殺し合いの最中に余計な事を考えてた。
二人乗りの小さな船だった。
[トニ達は?]
喉に何か引っかかってる感覚を感じながら言葉を発した。
志織の緊張が弛緩した雰囲気が伝わる。
どれだけ心配で不安だったのだろう。
[ごめん]
俺はそれしか言えなかった。志織は首を振る。
身体の力が抜けてく。支えられない。俺は横になる。目も開かない。
[お腹切るよ]
志織は言った。俺は小さくうなづく。
お腹に死体を入れるのだ。骨の折る音が聞こえる。細かくしてるのが音で分かる。
ズブズブと沈んでく感覚でまた意識が無くなった。
目を開く。身体に違和感を感じない。起き上がる。志織は俺を見ていた。腕や手、足や足指を意識する。異常なところは感じない。意識もはっきりしてる。
俺はため息を吐いた。
[もう大丈夫]
[あれしか方法がなかったの]
俺は首を振る。助けてくれてありがとう。と答えた。
[トニとパルは?]
[分からないわ]
志織は首を振りながら答えた。俺は周りを見渡す。陸が見えない。だが天気はいいし、波も高くない。
船には数体の死体がバラバラで置いてある。頭部は見当たらなかった。
とりあえず困る事はない。
これからどうするか。どうなるのか。
全く分からない。




