小説.9
101号室から鍵を開けてく。
中に人間やゾンビは居ない。
風呂に水を張る。水は勢いよく出た。
ポットと洗面台に水を入れて。と俺は志織に言った。志織は素直に動く。
シーツを取り、階段近くの廊下に綺麗に広げる。
志織に何をしてるか聞かれる。
[もしゾンビか人間が来たら分かるだろ]
俺は答えた。本当ならバリケードを作りたい。でもまずは水貯めだ。
順番に部屋に入り水を貯めていく。貯めてる間に部屋を物色。
廊下の奥、非常口階段に繋がるドアが開いている。
各階に繋がっている。
ゾンビが登ってくるとは思えないが人間なら。
鍵をかけても、人間なら屋根伝いにガラスを割ってホテルに入られる。
隠れる場所を最上階に決めた。
最上階で心配なのは火事だけだと思う。
万一に備えて屋上から逃げられる算段もしなければならない。
三階の廊下。不自然に机や椅子が積まれていた。人間がやった証拠。
志織に、助けて。誰か居ませんか?と言ってもらう。
子供の、しかも女の子の声なら出て来る可能性が高い。しかし、現れず。
仕方なく、鍵を使い端の部屋から開けてく。
304号室の鍵が無い。
ここで初めてマスターキーがある事を知った。
恐る恐るドアを開ける。何かが動いた。
発光した二体の人間。いや、ゾンビだった。男女。きっと恋人か夫婦。
少なくともバリケードを作ってる間は人間だったに違いない。
俺はソッとドアを閉めた。
[他の部屋にいるのかも]
志織が小さな声で言った。
バリケードを作ったのは他の人。その可能性が高い。俺には思いつかなかった。
部屋の中でどうやってゾンビになったのだろう。空気感染なのか?それなら志織もゾンビになってるはずだ。まさか抗体とか大丈夫な人間なのか?ゲームや映画なら、そんな設定もあり得る。現実は信じられない。
妄想が膨らむのを抑え込む。とにかく部屋の中の確認と水の確保。
次々と部屋を開けてくが誰も居ない。
305号室。ベッドが錯乱していた。誰かが居た証拠。でも鍵が置いてあった。
隠れる場所。
ユニットバスには居ない。入り口近くにある通風孔。開くが人が入れる大きさではない。
移動したのか?移動したなら、最上階かもしれない。
四階はバリケードは無かった。どの部屋にも人はいなかった。
五階。廊下にゾンビが居た。
こちらにやって来るが何故か一定以上近寄らない。俺が少し進む。ゾンビはその分下がる。
ゾンビを気にしながら501号室を開ける。中には誰も居ない。志織を入れる。
俺はゾンビにゆっくりと近づく。ゾンビは向きを変え離れていく。
最奥の505号室を過ぎゾンビは非常階段の行き止まりで止まる。
追い出せそう。と俺は考える。
いったん離れる。部屋の鍵は志織が持っている。
通り抜ける事は出来る。出来るが襲われたどうする?
ゾンビの動作は緩慢。
蹴りを入れる。よろけ倒れた。その上を飛び越え、非常階段を開ける。
起き上がろうとするゾンビを再び飛び越える。
起き上がるのを待ってゾンビに近づく。ゾンビは遠のき非常階段のドアから出てく。
俺は急いでドアを閉め鍵をかけた。
ゲームの世界ならイージーモード。そんな事を思った。
現実はこれだけでも充分ベリーハードだ。




