現実.119
志織の心配よりも自分が生き延びる事。
[俺と一緒に日本に帰らないか?]
俺はパルに言った。
[志織やトニ達はどうするんだよ]
当たり前の返事。
[多分、俺が危険な場所に居たら志織は心配する。だったらより安全な場所で隠れてた方が安心できるだろ]
[志織はお前の為に戦ってるんだぞ]
パルには珍しく少し荒げた口調。
[分かってるよ]
俺も少し大きい声で答えた。そう。分かってる。だからこそより安全さの確率を高める。俺が激戦区に近い場所に居ると志織は百パーセント戦闘に集中出来ない。
戦闘への集中力を際限まで高めて欲しい。
俺の手伝いは絶対に足手まといになる。
俺は志織を心配してない。志織だから大丈夫。だから俺だけ隠れる。安全な場所で。
これは逃げの思考なのか?自問自答する。俺だけが助かりたいわけではない。本来なら志織と逃げたい。だがパーティクルは増えない。数百年間はいい。千年後は?パーティクルを貯めないと志織はいつかは消滅する。永遠に一緒には居られない。
[俺が手伝っても足手まといになる。むしろ志織に余計な負担をかけさせる。だからこそより安全な場所に逃げようと考えてるんだ。俺に力があればこんな事は考えない。俺は志織を守ってきたつもりだった。だが現実は悔しいが違う。認めなくないが仕方ない]
俺は本音を言った。
[もちろん志織が死ねば俺も死ぬよ]
これも本音だ。
[俺だったら助けるけどな]
[俺も助けたいよ。俺がパルみたいに何百年も経験して強かったらな]
[今逃げる。よし。そうしよう。じゃあ次の時も守らずにまた一人だけ逃げるのか?]
そこまで考えてなかった。また必ず同じ戦闘が起きる。
[いいか、ヒロ。お前は全く経験してない。だからこそ今のうちに経験するしかないんだ。他のポピュレーターより断然有利なんだ。ダビデとかの強い仲間がいる。今、経験値を上げとかないと次がヤバいぞ]
[足手まといになったら?]
[次も足手まといになりたいのか?]
俺は何も返せない。
[長い間生き延びた俺からの助言だ]
パルは鼻をこすってから言った。
[死ぬ時は死ぬんだ。今でも一万年後でも]
俺はその一万年間を楽しみたい。その為には今生き延びないと楽しめない。でも途中にそのつど逃げまくる。逃げまくるのはいいが、志織を守る。という事が出来ない。一万年守られ続け、逃げ続ける。おそらく、俺の性格が歪むだろう。
[守ってやる。ってお前が言ったんだぞ]
パルのトドメの言葉。
志織ならどうする?俺が志織の立場で、志織が俺の立場。多分、私も手伝う。と言うだろう。俺は足手まといだから隠れてくれ。と。でも志織なら首を振る。
俺の願望か?いや、志織ならきっと言う。なら俺も。
[闘うよ]
俺はパルに答えた。




