現実.115
夜中にパルが小屋から出て来た。
彼の顔色を伺う。志織に何かあったか?
[俺はダメだった]
パルが言った。志織はまだ無事らしい。ダメなら、俺もダメだった。と言うはずだ。それでも聞かずにいられない。
[志織は?]
[あいつは大丈夫。呆れる位強い]
パルは弱い笑顔で言った。
ホッとしつつもパルはパペットの身体も失えばAZの元へ還る事を思い出し、俺は残念に思う。顔に出たのをパルは見て、
[まぁ俺は違うポピュレーターになるからな]
自分にも慰めるようにパルは呟く。俺はなんと答えていいか分からず、あいまいに何度かうなづく。
[とりあえず誰も来ない。戦車や装甲車が来たらヤバイから穴は掘った。摂取はどうする?]
俺は簡単な報告と一番の疑問を口にする。
[補給は行くしかないがギリギリでいいだろう。とにかくヒロは生き延びる事が優先だからな]
穴の事は何も言わなかった。摂取はやはり必要みたいだ。
[疲れただろう?代わろう]
パルが言った。ずっと見張り続けるのは精神的に疲労する。でも俺は慣れている。これが二、三ヶ月も続けばイヤになるのだろうが、十日すら経ってはいない。俺は首を振る。
[一緒に見張ろう]
俺の言葉にパルは俺の隣に寝そべる。
[なぁ、ヒロは人間ではないがパペットではない。多分不具合で出来た新しい存在なんだろうな。もしくはAZが意図して創ったか。そのどちらかなんだ。あの、本当の役目はなんだ?]
最後は少しドモってパルは言った。
[不具合だと思うよ。正直AZからは何も言われてない。むしろ本当にAZは居るのかすら思ってる。人間でいう神様みたいなもんだと]
俺はAZの事を体感してないから今だに半信半疑。
[AZは神ではないな。地球や時間、鉱石や鉄。宇宙を創ってないからな。一つの精神体。思考を細く分割出来るから集合体だ。分離しなければ一つの個体意識だが分離した分意識は別れてく。その一つが俺。それはハッキリと断言する]
[今までは何処にいたの?まさか地球で産まれた訳じゃないだろ?]
[気付いた時には宇宙にいた。ずっと彷徨っていた。長い長い間な。意識は途切れず何もない空間をただただ星を眺めるだけの時間。無為な時間を過ごす。一秒たりとも意識を途切らす事も出来ずにそこに居るだけの存在。何千年ならまだしも何億年もそのまま。自分の精神を分離し考え合うのも限界はある。最終的に同じ思考だからな]
俺はパルの話に違和感を感じた。話し方がおかしい。パルの目は遠くを見て虚ろ。まさかと思い、聞く。
[ひょっとして…AZ?]
それしかあり得ない。
[AZもパルも同じだが、今はAZだな]
俺は思わずパルから距離を取った。




