現実.109
小屋から出るとそこは小高い崖の上だった。後ろは海を真下に見下ろせて、前は緩い勾配のある広い湿地帯。周り一面を見渡せる場所。隠れ家には最適。
[ヒロとパペット達はここに居て]
志織が俺に言った。少し、いやかなりショックを受けた。ずっと一緒だと思っていた。
[私は大丈夫。私を信じて]
志織は真っ直ぐ俺を見つめた。
俺は志織を守るどころか足手まといなのは分かっていた。分かってるからこそ一緒に戦闘を避けるものだと思ってた。
[志織が闘うメリットは?]
言わずにはいられない。本当に聞きたかった事は[俺と一緒に居る以上のメリットがあるのか?]だ。
[シェーリーになった以上は回収するのが役目なの。回収しないのは、手を動かなさいのと同じなのよ]
[なら俺も行く]
志織の理由なんてどうでもよかった。言っても無駄なのも分かってる。
[ダメよ]
当然の返事。分かっていただけに苛立ちが起こる。だが閃く。俺も出来る限りポピュレーターを倒そう。俺が一人倒した分、志織の危険が一人分減る。そこで気付く。多分志織も同じ事を考えてる。いや絶対にそうだ。
俺はうなづく。
[絶対に死なないように待ってる]
俺は言う。志織を心配させたくない。余計な神経を使わせたくもない。
ここなら、爆弾を落とされない限り他より、はるかに安全。
ダビデも安全だと考えたからこそ、ここを隠れ家にしたはずだ。
パペットだけなら発光も弱い。
理の選択は全て志織が正しいし最適。
今は感情は枷になる。感情を出すとしたら、志織を信じる事。
[信じてるよ]
俺はそれだけ言った。
志織は多分、ホッとしてる。だが顔には出さない。俺は志織と何年居たんだ?志織の感情の読みは当たってるはずだ。
パペット達を置いて、志織は本体のトニとパルと駆け出して行った。
志織に何かあればトニ達のパペットが教えてくれる。志織とはぐれない限りは。
俺はパペット達に極力話さないようにし、見張りも俺が一人でやるつもりだった。
ダビデのパペットは既に動かない。
[来たぞ]
トニのパペットに声をかけられる。
敵が来た。




