現実.102
音楽を聴きながら歩き続ける。途中の民家から座椅子と布団を手に入れ、志織の座席にする。
島に着いてから一人として人間に出会わない。ポピュレーターにも。このまま一年がなんとか過ぎて欲しい。
楽しい事を想像する。
崖から海に飛び込んでみたい。サーフィンを覚えたい。海に映るオーロラを眺めていたい。スキューバもしたい。木の上で家も作りたい。ハンモックで本を読む。ギターも覚えたい。
その為に必要な物を考える。時間はいくらでもある。
夕暮れ。ヒグラシの声。カエルの声。
そろそろ寝る場所探し。さっき通った部落に戻るか。野宿をするのか。
志織と二人きりなら安全を優先し早めに決めている。先ほど通った部落の民家の何処かに。
ポツンと集会所。だが先を歩くトニはそこも通り過ぎる。
野宿をするのだろうか?
俺は疑問を口に出さずに後ろを付いて行く。
立派な鳥居のある神社。そこでトニの足は止まる。階段が少し急で長い。ゾンビはあがって来れないだろう。
荷車を置き、志織も階段を登る。
階段を上がりきると神社と裏の岩崖に掘った祠。雑草だらけの畑にトマトやピーマンが自生していた。
[ここで]
とトニは言い、畑に向かい野菜を集め始める。
俺達は荷物を神社の部屋に運ぶ。
見た目から誰も踏み入れてない事が分かる。
携帯カセットコンロ。ガスもある。
ロウソクも祭壇用の大きいのがある。
トニが遊びで木魚を叩きニヤリと笑う。俺も笑った。
[なぁ、ヒロは神様や天国、地獄、死の世界をどう思ってる?]
パルが珍しく尋ねた。
俺は木魚の前に祭壇。大きな鏡。貼ってある様々なお札を見渡す。
人間の信じてる神様は居なかった。人間を創り出したのが神様だとしたら、それはAZ。
AZの詳しい事は志織、トニ、パルから聞いた。
AZは人間の願いを叶えない。ただ人間だけを作り自分の気に入った場所を守るだけ。
どこで産まれたのは分からないが、地球が壊れるまで居つき、退屈しのぎで人間を作り、自由に地球で生かしている。
人間は、肉体という乗り物が壊れたら、AZの中に戻り、いつかまた個体として地球に現れる。
天国も地獄も存在しない。何も思わず考えない時間が死ならば、眠ってる時は死の時間。死の世界はAZの元へ戻るだけの事。
いや、ひょっとしたら、AZの世界が生で離れた人間の時間が死の世界なのかもしれない。
[ヒロ]
不意にトニに声をかけられ振り向く。トニは刀を持っていた。それに気付いた瞬間俺の視界が地面に変わる。
急速に意識が薄まる。視界の隅にパルが志織を担いでた。そこで意識が消えた。




