現実.99
志織の食事を終えた頃には辺りは真っ暗に。
誰も話さず、それぞれが物思いに更けている。
気まずい雰囲気ではなく、平穏な空気に浸かっている。
みんな、何を考えてるのだろうか。
俺はそう思いながら焚火をただ見ている。
安全な場所。暑さも寒さも空腹も喉の渇きも感じない。
当面は不安も心配も考えなくて済む時間。
これからこんな日々を十年、五十年、百年過ごす事を想像する。つまらなくはない。
志織やパル達は分からないが、俺は好む。このままが続くのは有りだ。
働らく必要もない。将来の不安も心配しなくていい。
誰にも文句は言われない。
退屈になればまた違う場所に向かえばいい。旅だと思える。
ポピュレーターの奪い合いが終わったら、色々な場所を見たいと思う。グランドキャニオンやピラミッド。ジャングル。万里の長城。
時間だけはたくさんある。
志織はアクビをし、俺は我に返る。
[寝る?]
と俺は声をかける。志織はうなづく。
[羨ましいな]
とトニが言う。ナゼ?と俺。
[お前らは会話が成立するから退屈しないだろ]
[暇な時は何をしてたの?]
俺達の事を話題にされるのが少し恥ずかしかったので質問で返す。多分トニは暇なのだろう。
[楽器を覚えたりジャグリングをしたり。まぁ暇つぶしだな]
と言って、適当な大きさの石を十個拾い、クルクルと石を放る。トニのパペットも同じく十個の石をクルクルと放り回し始める。シェーリーのトニがパペットのトニに並び二人で交互に石を回し始めた。見事な芸だ。
[トスジャグリングっていうんだ]
[俺もやってみる]そう俺は言い石を拾いトニの真似をしてみる。がなかなか上手く出来ない。
[難しいな]俺は落とした石を拾いながら言う。
[そう。難しいんだよ。何度も諦めた。でも暇だからずっとやってた。そしたら出来るようになった。俺とコイツで三十個までなら簡単に出来るぜ]
[スゲーな]俺は本心から言う。
[武術を習いたいね]
トニはもう飽きたのか石を落とし言った。[ボクシングでもいいな]
俺はうなづく。
どうせやるなら現実に役立つ事をやりたい。
[ヒロはどうやって時間潰してた?]
トニが聞く。
小説を書いてた。とは言えない。携帯電話は持っているが電池が切れてる。
誰かに読んで欲しい気はあるのだがトニやパルには恥ずかしい。
[本を読んだり、色々考えたり。そもそもこんなに平和な時間は少なかったからなぁ]
俺は言う。生き延びるのに必死だった。
[まだこの世界に産まれて二十七年だからなぁ]
俺は言った。トニが声をあげて笑う。
[そうか。そうだったな。いやいや、笑ってごめん。ヒロは人間だったからなぁ。百年は経験してるように見えるからさ]
[トニは何歳?]
[三百ちょいかな。三百年しか…だな。でも退屈だったなぁ。AZの元に戻るのもありだとたまに思うよ]
トニは真顔で話す。
[志織は?]
俺は話の流れを壊さないように聞く。志織に聞きたかった質問。聞くなら今しかない。
[レディに歳の話は禁句よ]
横になってた志織はそのままの姿勢で笑って冗談の口調で言う。俺は笑わない。知りたいからだ。志織はため息を一つ吐き、ムクリと起き上がりあぐらをかいて俺を見た。
[千六百年位]
志織が言った。トニが口笛を一つつく。
途方もない年月。すぐに想像つかない。
[過ぎてしまえばあっと言う間よ]志織の言葉。
志織はまた横になった。




