現実.92
パルと合流する前にトニがシェーリーになった。
[これでクソする心配はしなくて済むな]と冗談を言う。最後までチョコばかり食べていた。
肌の色は白くなり、身体能力がパペットと変わらない位に上がる。小太りの身体なのに、二メートル近く跳び跳ねる。動きも素早くなる。二本の木を手を使わず蹴り上げながら登る。
[これで味覚さえあれば最高なのになぁ]
と木の上から周りを見渡しながら大きな声で喋る。身体の動きに慣れている。
俺よりも上手い。
これで俺と志織はお荷物になる。いや、そのうち必ず俺だけがお荷物。気分が重くなる。
志織は敏感だから気づかれたくないので話題を振る。
[志織はどれ位でシェーリーになるの?]
志織は俺に心配かけさせない為に誤魔化すかもしれないから、トニに聞いた。
[まぁ一年はかかるな。この調子なら]
[最後の審判はいつ?]
[一年後じゃねぇか?]
間に合うかギリギリ。やはり早くたくさんのパーティクルを回収しなくては。
パルの元へ向かいながら、時たまトニが電柱や高いビルに登り遠くを見渡す。
ポピュレーターも何人か見かける。が襲ってはこない。
志織だけ睡眠を摂るので、夜は寝て俺達は志織の食料と飲料水を探し、昼はパルの所に向かって歩く日々。
ゾンビは遠巻きながらも志織目的で付いてくる。が、もうほとんど心配はしてない。
人間も行動時間が違う為に滅多に出くわさない。
[おっ、パル居たぞ]
電柱の上のトニが大声で知らせる。
あと数時間歩けば合流出来る。ポピュレーター同士はパーティクルが多いと見分けられるらしい。俺には光加減でした分からない。
トニに、俺の発光はどんなのかを聞いたが、人間と同じ弱い。との答え。
[なんだよ。俺達の事分かってるのに、こっちに来ないじゃねえかよ]
トニが憤然としながら愚痴る。一箇所から全く動かないらしい。
パルの居場所は大きな病院だった。
中にはパルしか居ない。ゾンビも居ない。どうやらパルもシェーリーになってるみたいだった。
病院玄関から中に入る。壁という壁に子供の落書きのような絵が無造作に貼り付けてある。どれも下手くそだが、その下手くそだかこそ異様に怖い。精神病者が描いたような絵ばかり。
[人間対策か?]
トニが言いながらもおかまいなしに中に入る。




