現実.84
一気に小説を最後まで読み終わる。
読んでる最中から、志織の小説を実話として読み続けた。
騙されてた。とか、嘘をつかれていた。という疑心感や怒りは、これっぽっちもない。
強いてあげるなら、俺に早く伝えたとしても志織に対する気持ちは変わらないのに。という寂しさ位か。
志織なりの優しさなのだろう。
[これって実話だよね]
俺は言った。寓話でも実話でも、変わりはない。志織も覚悟はしていたのだろう。真面目な顔で謝った。
[嘘をついてごめんなさい。いつ話そうかずっと迷っていたのよ]
[未来もこうなるの?]
志織は首を振る。
[俺の事は本当?]
[理論的にはそうだと思う。試してないし、もし間違っていたらイヤだからやれないし、やらないわ]
それから何度も読み返す。これは小説風になっているが、この世界の説明書だ。
AZがやり過ぎた人間を懲らしめる為にパーティクルで人間を脳硬化し、人間の世界が変わった。そのパーティクルの回収役に志織達のポピュレーターが居る。そこまでは事実として認識できた。
そしてポピュレーター同士のサバイバルをさせる?生き残った強いのがカーリーと呼ばれ、それが真の始皇帝やエジプトの王だった?それらが志織と友達?
どこまでが事実でどれが虚構なのだろうか。だが、全て事実だとしても俺のやる事は決まってる。
志織を守る事。
[とにかく俺が現実にやるべき事は?]
俺は聞く。
[パーティクルをたくさん回収する事。そしたら私はヒロと同じ身体になれるの。カーリーという存在になるのよ。ヒロとずっと一緒に居たいの。それは変わらない事実よ]
カーリー。タオが言ってた俺に言ってた単語だ。
[ポピュレーターでなくて?]
[ポピュレーターはカーリーやパペット、シェーリー全てを含むわ。カーリーは本体の事を指すの]
納得がいったが、違う疑問はまだある。
[登場人物は事実?]
[えぇ、実在するわ]
[パーティクルを回収し、志織をカーリーにする。その為にトニに戦う方法を教わる。でも志織から教わってもいいんじゃない?]
[闘い方が違うのよ。私のは直接、松果体に刺すやり方]
[パペットって?]
志織は黙る。無言が答えだ。
聞いてから失敗したと思った。それがあるから志織はずっと黙っていたと思った。志織の辛い気持ちが分かる。それでも聞いてしまう。
[俺を操ろうと?]
[ごめんなさい。最初はそうだったの]
俺も小説に書いた。自分の弱さを。志織に知って欲しくない事も書いた。かなり悩んで何回も書き直して書いた。きっと志織も同じ気持ちだろう。
[謝る事はないよ。俺はきっとあの時、死んでいたかゾンビになっていた。もし人間のままでもいずれ死んでいたし、生き延びても何処かで必ず死んでたはずだ。今は違う。志織がいるし、志織を守る目的もある]
俺は志織の目を見て言った。




