現実.70
後味の悪い出来事。だが仕方ない。
二ヶ月しか持たなかった平和な世界。
ゾンビはゾンビらしくあてもなく彷徨えと言うのか?
[やっぱり作るしかないのか]
俺は呟いた。
そう。今まで平和な場所をずっと探していた。だが、作る事も出来る。平和な場所を作ればいい。
作るより探した方が可能性が高かったから探していただけ。
平和な居場所は自分で作れるのだ。
現に冬の旅館、学校や高級マンションも快適だった。
たくさんのゾンビが集まろうとも、俺には関係ない。志織さえ外に出なければ。
三浦家だって、結局は外には出られない。
自由な移動は制限される。それは刑務所だろうが、小さな離島や船だろうが同じ。
マンションに土を運べば栽培も出来る。
変なヤツにさえ会わなければ。
ゾンビはよほど甘く扱わなければ大丈夫なはず。人間も大勢でなければ。だがタオみたいなヤツ。それが問題だ。
歩き回るのは遭遇する可能性が高い。
[人気のないしなびたホテル。学校。高級マンション。どこがいい?]
俺は志織に聞いてみた。
[それだと高級マンションかな。やっぱり]
志織は普通に答える。哀しい感じでも怒ってる感じでもない。普通。ごく普通。
いつもの志織。それだけで安心する。
[なるべく暖かい方がいいか]
俺の独り言。とりあえず目指すのは電車の線路。そこから大きな駅に向かえば行き先が分かるし、線路なら迷う事はない。
[やっぱ三浦家に居た方が良かったかなぁ]
俺は言ってみた。
[いつかは出るつもりだったからね。正直いいチャンスかなと思っていたわ]
志織の返答に俺は少し驚いた。出るつもりだったとは思ってもいなかった。平和が崩れたら出るのは分かるが。
[なんで?]
[ずっと平和な場所はないと思ってるから]
シンプルな答え。もちろん俺もそう思ってはいるが、自分から平和を壊す必要はないと思ってる。
[ヒロはツトムさん達のとこに居たかった?]
志織が尋ねる。
俺はどちらでもいい。志織さえ居れば。それが本音。
[志織さえ居れば]
と思わず口に出た。
[私もヒロさえ居れば]
と志織は答え顔を背けた。俺は志織の顔を見たかった。覗き込む。
[やめてよ]
と志織は顔を背けながら言った。照れ笑いがチラリと見えた。俺の顔にも笑みが浮かぶ。
志織が笑っていれば、いつでもどこでも俺の心は平和になれる。
また二人きりの生存生活が始まる。
まだ三年。イヤな事は脳みそで考えよう。楽しい事は心で感じよう。
気分さえ良ければ俺は平和なのだ。
その気分は志織によって決まる。




