現実.66
[何したら、そんなになるのよ]
閉口一番、志織は聞いた。
[昨日のヤツを見てさ、この力を使いこなせたら強くなれるんじゃないかと思って]
[で、何してたの?]
[木に登って木渡りを]
[猿みたいに?]
俺はうなづく。
[上手くいきそう?]
[慣れてしまえばね。でも面白いよ。意外と]
[大車輪ってヤツ出来る?]
[鉄棒でグルグル回るヤツ?]
志織がうなづく。
[やった事ないけど手袋をはめたら出来るんじゃないかな?]
フーン。と志織。あまり興味は無さそうだ。
[そうそう、昨日のタオってのが、伝えとけ。って言われたんだが、誰に伝えるのか知らないんだよね。きっと三浦家の誰かかと思うんだが、それらしい人いた?]
[んー…全く注意して観てないから分かんない。でも…んー、居なさそうよ]
誰だろうか?誰かと間違えたのかもしれない。俺のようなゾンビの身体をした人間と。
[俺みたいなの他に居ると思う?]
志織は少し考えて
[居るんじゃないかな。私が考えてる小説には出てくるよ]
志織は笑って言った。
[どんなお話なの?]
[主人公が私で、私は神様に仕える天使なの。そして、神様の指令でこの世界を変えてくお話]
[おー。面白そうだな]
神様に天使か。神様は全てを知っていて全てを創造したんだよな。なら俺もゾンビも必要だから造られたんだな。
と俺は考えた。
[で、ヒーローはヒロにするね]
[お、おう。ありがとう。敵は?]
[敵は居ないの。でも人間かな]
[ゾンビじゃなく?]
[ゾンビも人間なの。意識の無い植物人間も人間でしょ?]
なんか、しっかりと考えてるようだ。
思い付きとかじゃないみたいだ。
[最後はどうなるの?]
[内緒]志織は笑って答えた。
ちゃんと最後まで考えてるらしい。
小説を考えた。それは志織も気持ちに余裕が出てきた証拠だ。
[ツトムさんとこで考えたの?]
俺の質問に志織は首を振る。
[前からか?]
志織はうなづき[けっこう前から考えてたの。だって暇じゃない]
少しだけ安心した。それなら三浦家を出ても多少なら余裕があるって事。
[携帯が欲しいわね]
俺は志織の頼み事にうなづく。どのみち発電機と無線機を探しに行きたいと思っていた。




