現実.62
宴会が始まる。
今日位は、ここに泊まりなさいよ。と言う皆の誘いを、疲れたから。と丁重に断る。
それでも遅くまで宴会に参加し、けっこう食べさせられた。
やっと独りきりのコンテナハウス。
疲れも眠気もない。気分は志織の理解と励ましで落ち込んではいないが、良い気分でもない。
今夜はもう寝たいから。と言って出て来たので誰も来ないはずだ。
手持ち無沙汰。まさか、町からの尾行は無いと思うが。と、その心配もあってコンビニマのゾンビを摂取しに行く。
左腕が多分臭ってる。あれだけ動いたのと、普通の食事を胃に入れたので。
新しい包帯と服を持ち走った。
力を入れてジャンプしてみる。かなり跳べる。視野と感覚が身体に追いつかないので、つんのめりそうになる。
筋力はあるが、体感がついてこない。慣れてない。今まで人間の身体だからという理由で壊さないように力を加減していた。力の解放を全く考えてなかった。
この人間離れした力をもっと上手く使いこなせれば志織を守る事もより安全になる。それに、もし俺と同じ人間に会った時にも有利になれる。タオという男がもし襲ってきても大丈夫になる位強くなりたい。
より遠くにジャンプしながら進む。
空いてる時間は運動しようと思った。
コンビニに着いた頃には足首がグニグニと柔らかくなってた。多分、酷い捻挫。でも、この不安定な感じでは骨やアキレス腱は切れていない。
折れてたりすると、足が痺れて感覚がない状態のような不安定になる。
ゾンビの数は六体しか居ない。どれも汚いので一番発光の弱いゾンビから摂取する。
暗い景色は俺には白黒濃淡の灰色の世界。それでも暗闇で見えるのは有利だ。ゾンビを押し進める。右腕が掴まれてしまった。ごくたまに掴まれる。俺の右腕が潰れ曲がる。ゾンビの掴んだ手を捻じ曲げる。ゾンビの肩が簡単に外れる。面倒臭いので、そのままゾンビのアゴを掴み潰す。アゴがダラリと垂れる。これで噛まれない。倒れ崩れるゾンビの左手首を掴み持ち上げる。これで掴まれず噛まれず川まで持ち運べる。
裸になりゾンビを摂取する。
汚れないように摂取する方法は無いかと考えながらゾンビの首元に歯をあてる。
左腕をこそげ落としながら噛みちぎり咀嚼する。
気配を感じ振り返った。迂闊だった。
余計な事を考えてたせいだ。
人間。背が高い。ヨウジ君?
[ヨウジ君?]俺は声を出す。
[あ、あ、は、はい。ご、ごめん…なさい。あ、あの]
ヨウジ君だった。俺のミス。仕方ないから開き直る。多分だが俺の事を好意的に見てくれてるはずだ。
[変なの見せてごめんね。どうしたの?]
と、これは別に特別な事ではなく普通なんだと思わせる。
[い、いや、あの、ちょっと話がしたくて来たらいなかったので、ひょっとしたら居なくなったのかもって…]
[俺を捜しに来てくれたの?]
俺はヨウジ君の話の先を言った。ヨウジ君は何回かうなづく。
[心配してくれたんだ。ありがとう]
俺は言った。
[大丈夫だよ。志織を置いたまま居なくはならないよ]
道路は明るいが、ちょっと森の中に入れば暗い。ヨウジ君は懐中電灯を点けてなかった。
怖さはないのか?と思った。
[怖くないの?]と聞く。
[こ、怖くは…ないです。本当に]
聞き方を失敗した。ヨウジ君は、怖さを暗闇ではなく、俺の事だと思ったみたいだ。俺はヨウジ君の思考に合わす。
[俺の身体、ゾンビそのものなんだ]
人間との違いは肌の色だけ。俺は慣れてしまったからもう違和感は感じない。




