現実.61
志織はどうする?
志織の事は志織に任せる。もう十五歳だ。
いや、その考えは逃げだ。俺は志織を守るのが俺の目的で生きてきた。
ならばここに居るべきだ。だが、あの連中がここに襲いに来るかもしれない。
どうしていいか分からない。
やるべき事。志織を守る事。そこに染み入るように入ってくる思考。
それはやりたい事。
俺みたいなヤツが居る事を知ってしまった。ソイツを知りたい。会ったからといって味方になるワケじゃない。敵になるかもしれない。俺が殺されたら志織はどうなる?リスクがあり過ぎる。だが。それでも。
今まで、やりたい事はなかった。
やるべき事だけをやってきた。
[ねぇ、帰ろう]
ミズホさんの言葉で我に帰る。そう。まだ途中。俺はうなづいた。
三浦家。三浦家の人達は大量の荷物を見て、喜んだ。だが俺達は浮かれる気にならない。
ツトムさんが手招きする。
[信長君は二度とここに来ません]と俺から言った。ツトムさんはうなづく。
[バレたのか?]とツトムさん。多分、俺達五人が浮かない顔をしてるからだろう。俺は首を振り、疲れてるからでしょう。と答えた。
志織と目が合う。ツトムさんも気づき、ありがとうな。詳しくは明日聞くよ。と肩を叩き、気を使って俺から離れてくれた。志織が近付く。
[なんかあったのね]と志織。俺はうなづき、起きた事全てを話した。
志織は黙ったまま。そして[仕方ないね]と言った。
[とりあえず、ここにまだ居ようよ。私ね、小説書くわ。書きたいのよ。ヒロの書いたのより面白いわ]と笑って言った。
気落ちしてる俺を励ましてるのが分かる。俺はうなづく。
[ごめんは要らないわ。本当に仕方ない事だし、皆を無事守れたんだし。そこにスポットを当てるべきよ]
志織が俺の謝ろうとする思考を先読みして言う。
[ありがとう。そうだな。俺は守ったんだ]
[そうよ。ヒロ、カッコイイわよ]
志織が俺の奮起に付き合ってくれる。
[お、俺はカッコイイ]
俺も無理矢理、奮起する。
[よっ、ヒーロー]
志織は笑う。俺も笑う。
そうだな。一生懸命頑張ったんだ。この結果は仕方ない。
やっとそう思えた。
[なぁ、俺の小説どうしよう]
[途中で辞めていいんじゃない。他に書く事あるの?]
[あんまりない]
[なら、少しはあるのね。それだけ書いちゃいなさいよ。だいたいここ一年なんだかんだ平和だったし。ヤバイ事と言ったら…]
[地下鉄?]
[罠にハマった時?]
同時に言った。俺が言ったのは地下鉄。
[地下鉄?罠の方が大変だったわよ]
[そうだったな。あの時は迷惑かけた]
俺も志織も笑顔になる。
そう。なんだかんだ二人で生き延びてこれたんだ。




