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現実.59

部屋に入る。誰もが話さない。

[お前、ゾンビだったんだな]

男が言った。

[その前になんか言う事があるんじゃねえか。助けてもらったんだぞ]

信長のフォロー。だが誰も言わない。


[とりあえず帰るまでは安全を保障する。着いたら出てくよ。黙ってて悪かったな]

俺は言った。どう言い訳しても無理だと諦めた。既に三浦家から出た後の事を考え始めてる。

[いやいや、誰も出てけとは言ってないだろ]

信長の言葉。多分、俺を認めたのだろう。俺はツトムさんに信長を殺せと言われてる。


[志織ちゃんは知ってるの?]

ミズホさんは弱々しい声だがはっきりした口調で言った。俺はうなづいた。

[男が好きだからじゃない。ゾンビだからなのね]

ミズホさんの言葉にヨウジ君が過剰に反応した。ピンときた。多分ヨウジ君は男が好き。ゲイなんだろう。

俺はうなづく。うなづくしか出来ない。


信長も殺せない。信長も連れて一緒に出て行こう。二度と三浦家に近寄らない約束をさせる。それで文句は出ないはず。


まだ空のゴルフバッグが三つ。

[俺一人で探してくる]

俺は言った。このまま皆と居るのは流石にキツイ。ゴルフバッグを二つ抱えて外に飛び出す。


二階から車に飛び降りる。着地の時に柔軟に降りれば痛まない。身体が壊れると後々困るので今まで無茶はしなかった。


ゴルフバッグを一つだけ持ち走って近くの店屋から入る。一人だと好きなように出来る。物音を立てても気にしなくていい。ゾンビの間を潜り抜ける。トイレのドアを蹴破る。棚を乱暴にどかす。気が立ってる。悪い事はしてないのに嫌な気分だった。


志織ちゃんも嘘ついてたのね。ミズホさんの言外の言葉が浮かぶ。俺の妄想だと思うが脳裏から離れない。

志織が非難された。それが苦痛だった。

仕方ない。と志織は言うだろう。仕方ない。だが。しかし。


やるべき事を考える。

その思考が浮かぶ。タオという男も言っていた。

賢く生き抜くには、それが前提なのだろう。


やるべき事。無事に帰る。生活物資を集める。まずはそれだけを。無事に着いてから考える。どうせまた旅に出る。前と同じ生活に戻るだけだ。三浦家に愛着もない。


少しは落ち着いてきた。

そう言えばミズホさんは化粧品やブランド物が欲しがっていた。思い出す。モールへ行ける。まだ午前中。時間はある。


適当にかき集めた生活品を詰めたゴルフバッグをアパートの二階に置く。空のゴルフバッグに持ち替えモールへ駆け出す。


モールは人間が隠れていた。だが誰も隠れたままだ。俺の邪魔さえしなければどうでもいい。

目当てはブランド物の服とアクセサリー。化粧品。

化粧品は三年経っても使えるのか分からない。出来る限りゴルフバッグに詰める。ダメなら捨てればいいだけだ。

アパートに戻る。

[ありがとうな][ありがとうございます]と信長以外が言ってくれた。多分、信長に諭されたのだろう。だけど俺にどう対応すればいいか迷ってるのが分かる。


俺はミズホさんにバッグを渡し、中味の選別をしてもらう。いい時間潰しになる。

ウィスキーを見つけたので紙コップと共に渡す。俺は、よく眠れるから。と言った。

信長は何も言わなかったが、神妙な顔をしていた。信長らしくない表情。

新しいゴルフバッグを担いで下に降りる。二階から信長が声をかけた。

[おい。お前スゲーな…]

俺はうなづいていいか分からず見上げたまま。間があってから[サンキューな]と信長は言ってすぐに部屋に戻った。


救われた気がした。いや、実際だいぶ救われた。


探しに行く足取りが軽く感じた。



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ゾンビサバイバル.番外編も書いてます。
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