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現実.58

誰も何も言わない。

気持ちが良かった。と思う反面、ミズホさん達にどう思われるか心配だった。

見なかった事にしてくれないかな。と不可能な事も思った。一応の言い訳は用意してある。

火事場のクソ力が出た。と。だが信用しないだろう。

[タオさんを呼んでこい]

リーダー格が言った。誰も返事をしない。

[早くタオさんを呼んでこいっつっただろ]

男は叫んだ。が固まる。後ろから中国服を着た男が見えた。俺を一瞥して言った。

[お前はシェーリーだな]

[違うと思います]

俺は答えた。よく聞こえなった。セィリー?シェアリー?


男は跳んだ。車三台分の高さから俺の所まで。助走もつけずに。

すぐに思った。ひょっとして俺と同じ?

[セェーリーって、ひょっとして意識のあるゾンビの事ですか?]

[違う。シェーリーはシェーリーだ。なぜずっとここにいるのだ?]

[いえ、すぐに帰ります]

[お前、ひょっとして何もしらないのか?]

男は意表を突かれたような口調で言った。

[よく分からないですが、貴方は脳のあるゾンビじゃないんですか?]

俺は自分と同じ人間が居る現実で頭がいっぱいだ。

[お前と俺と一緒にするな。そうか、知らないのだな]

男は黙る。何かを考えてる。

[なら、もうお前は帰れ。そして伝えろ。いつまでもここに居るなと。やるべき事をやれ。と]

男は言った。そして少ししゃがみ込むと後ろに思い切りジャンプした。

人間ではあり得ない脚力。俺でも無理だ。

[約束通り返してやる]

中国服の男は俺にそう言ってリーダー格の男を見た。リーダー格の男は慌てて他の男達に命令する。

俺達は解放された。荷物も全て。

タオさんにシェーリー。そして誰に伝えるのか?

志織?と思ったが、どう見ても中国人とは思えない。それに俺をシェーリーと勘違いしていた。ゾンビの身体をした人間をシェーリーとも呼ばない。ツトムさんが関係あるのか?

三浦家の誰かがタオとかいうヤツの知り合いなのか?多分、それが一番可能性が高い。


他に可能性が高いのはゾンビの種類の名前。

俺もゾンビの一種類。普通のゾンビよりも知恵がある。その上にレベルの高いゾンビが居るのかもしれない。その種類をシェーリーと呼ぶのか?


信長も誰も口を開かない。ミズホさんやヨウジ君達、誰も俺に近寄らない。


囲いの外。ゾンビが集まってる。信長が返してもらったドライバーでゾンビの頭を殴る。殴りながら[おい、俺達はどこに行けばいいんだよ]と俺に向かって怒鳴る。

そうだった。やるべき事。皆の安全を優先。考える事はいくらでもある。


周りを見渡す。俺達の方ではなくアイツらの方にゾンビが多く移動している。アイツらの反対側に向かう。


近くの二階建てのアパートに上がる。荷車を持ち上げる。

火事場のクソ力の言い訳は通用しない。

仕方ない。

自転車とバイクで階段を塞ぐ。洗濯機でも塞ぐ。

部屋はどこも開かない。信長がドライバーでドアノブを壊す。

皆が中に入る。俺はゾンビの返り血で血まみれ。中に入らず外にいる。

[なんで入らない?]

信長が言った。俺は血まみれだと答える。

[ほらよ]と信長。この部屋にあった服を渡される。



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ゾンビサバイバル.番外編も書いてます。
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