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現実.57

[まぁ分かってるとは思うが、それを全てよこせ]

リーダー格の男が言った。

[渡したら、お前ら素直に逃げろよ]

俺は男達に強気で言う。下手に出たらダメだ。かといって強気過ぎても怒らせる。加減が難しい。問答無用で襲ってきてないから、多少の交渉は可能だろう。


第一優先は仲間の無事。物資はまた探せばいい。

[俺達を満足させたら無事に返す。これは今までもこれからもやるつもりだ]

周りの男達が笑う。

[俺達は退屈してるんだ。ゾンビと殺し合いをやって勝ったヤツだけ無事に返してやる]

[イヤだと言ったら?]

[ここで死ぬんじゃね?]

[全員か?]

[もちろん]

[俺一人で皆の分をやる。同時でもいい]

[おいおい。まさかタイマンとか思うなよ。ゾンビ十人と戦うんだよ。つまり同時だと…六十人だ。つまんないね]

[なら、俺が死んだら、次のヤツと戦わせればいい]

[面白い。いいぜ]

連れて行かれる。信長が言う[俺もやるぜ]と。

[じゃあ、お前は二番目だ]

リーダー格は言った。

信長の考えは分かる。ゾンビ六十体。二人なら三十体ずつで済むと計算したのだ。信長は意外といいヤツだと思った。が、今更、引けない。それに何体いようが俺は大丈夫。

問題は素直に俺達を放してくれるかどうかだ。


[お前、なんでそんなに落ち着いていられる?]

俺を見張ってる男が俺に聞く。

[ビビっても仕方ねえだろが]

聞かれてない信長が答える。俺への気遣い。俺にビビるな。と言いたかったのだろう。俺は返事を返さない。どうやったら無事に六人抜け出せるか。それを考える。


両脇に車を三台縦に重ねた通路を入っていく。半分以上の男は車の上に登り歩く。俺達は下の道。少し進むと空き地に出る。周りをグルリと車でかこってあり、同じように三台重ねて壁にしてある。

広場の中にはコンテナハウスが一つ。俺以外がそこに入れられる。

ハシゴが降り皆が登る。ハシゴが外される。下には俺一人とコンテナハウスに信長達五人。

[さぁ賭けようぜ]

リーダー格は言った。上の男達が賭けを始める。死ぬまでに何体殺せるか。今まで何回もやってたのだろう。賭けのやり取りが手慣れている。

賭ける物はタバコ。アルコール。お菓子。

なかなかいい退屈凌ぎだ。

[俺も賭けていいか?]と聞く。皆笑う。

[いいぜ。何を賭ける?]

リーダー格は言ってくれた。

[六十体全部倒す。それも怪我をせずに。それに俺達と俺達の物全ての解放]

[賭ける物はなんだ?]

[俺達は死ぬまで、お前らの奴隷になる。女もいるぞ]

周りの男達が笑う。リーダー格は言った。

[面白れぇ。すげぇ自信だな。いいぜ。傷一つなく六十人全て殺したら、食料も全て返してやるよ]

歓声があがる。

[嘘をついたらお前を殺す]

[生きてたらな]

俺は座り込んだ。下は砂利。余裕だった。

心配なのは、俺の素性が信長達にバレる事だけ。だが仕方ない。第一優先は皆を無事に返す事。


太陽が昇る。俺はコンテナの方に移動する。両手に砂利を掴んだまま。

イメージトレーニングをする。釣りのリール竿で出来る限り遠くに飛ばすように腕の遠心力で投げる。力だけで投げると脱臼する。


[よーし、開けろ。始めるぞ]

嬌声が上がる。野次が飛ぶ。ゾンビが通路から這い出るように向かってくる。

俺は掴んだ砂利を思い切り投げた。

ゾンビに当たり、崩れ倒れる。砂利は車にも当たり、大きな音を立て割れたり、食い込んだりする。砂利を拾い投げる。数体ずつ倒れてく。砂利はゾンビの身体や頭を貫通する。

嬌声が止む。聞こえてくるのは、砂利が車に当たる音だけ。

最後に数体残る。右肩の筋がおかしい。投げる時に無理した。俺は走って近付き頭を蹴り上げる。凄い勢いで転がるゾンビ。残り二体。逃げようとする前にビンタをかます。ゾンビは地面に叩きつけられバウンドする。残り一体。逃げようと振り返ったので背後から頭を掴みひねる。顔がこっちを向く。口から血を吐き出す。俺の腕と身体にかかる。

ゾンビは倒れる。


足元にはまだ動いてるゾンビ。動きのいいゾンビの頭を足で踏みつける。少し過剰な演出をする。


文句は言わせない。俺は息切れ一つしてない。言ってやった。

[さぁ、品物を返せ。賭けは俺の勝ちだ。破るならお前らを殺す]


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ゾンビサバイバル.番外編も書いてます。
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