現実.51
ミズホさんが食べ物を持って来た。
[今夜からよろしくお願いします。ご迷惑をかけないように頑張ります]
とミズホさんはいつもより丁寧に言った。緊張してるのかと、思ったが、志織の言葉を思い出した。俺は男好き。
丁寧な言い方をしたのは俺から距離を置いたのだろう。俺は知らない事になってる。
[ミズホさんは食べたの?]と俺の問いに、[緊張してるせいかあまり食欲がないの]と笑って言った。俺は渡された食べ物を差し出す。[先に食べとかないとやばいから]と言って。
ミズホさんは断ったが[俺は食べない方が集中力が増すから食べたくないんだ]と言った。[食べてる間に大事な事を話すよ]と付け加える。ミズホさんは黙って受け取り食べ物を口に運んだ。
[危険な場所で必要なのは、慌てない事。慌てないようにするには、あらゆる想定をしとく事。高いとこから狙撃されてるかも。ピアノ線とか罠を張られていないか。転がってるゾンビがいるかもしれない。とかね。そんな馬鹿な。と思うような事がよく起きる。不意な事や、自分が考えてなかった事態に出くわすとパニックになる。それは自分だけじゃなく、他の仲間も危険に晒してしまうしね]
ミズホさんはうなづく。
[他の人間に見つかる前に先に見つける。灯りで分かるし、分かってしまうから。そしてもし、声をかけられても無視。それが助けを求める声でも子供でもね]
ミズホさんの食べる手が止まる。
[ワナかもしれないんだ。それに助けられないんだ。どうしても助けたいなら、その場に食料を少し置いてく位。ただそれにもツトムさんや三浦家の合意が必要になる。第一は自分を優先。第二は三浦家を優先。その為に探しに行くのだから]
ミズホさんは目を伏せていたがうなづいた。
[誰かが大怪我をしたり、ゾンビに噛まれたら、置いてく。だから絶対に無理や無茶な事はしないで欲しい。自分の出来る範囲の七割でいい。三割はいざという時に残しとくんだ]
ミズホさんは神妙にうなづくだけ。
少し怖がらせてしまったが、仕方ない。甘く考えるよりかは、臆病過ぎる位がちょうどいいはずだ。
[まぁ、滅多に全力で逃げたりする事はないから]
とは言ったが、俺は夜、歩き回る事はほとんどない。どれだけの人間が歩いてるのかは、一場所ごとしか分からない。
ましてや今回はグループ行動。
四人分の安全な場所の確保を考えなくてはならない。
やるべき事。考えるべき事は山ほどある。
[腕に噛まれても大丈夫なように、何か硬い物を巻いといた方がいいかな。無ければいいけど]
ミズホさんが帰る前に俺は付け足した。




