現実.50
小説を書く手が止まってしまった。
書きたい事と、読み手を意識して書く事は異なる。
自分の為に書く。志織の為に書く。大きく違う。
志織の意見は的確だ。俺は志織の為に書いてるつもりだった。面白い。と満足してもらう為に。それがいつの間にか、俺の気持ちを知って欲しい為に書いてる。俺が満足してる。志織を満足させたかったはずなのに。
こういうの好きな人にはハマるんじゃないかな。と言ってくれたが、後に続く言葉が浮かぶ。
私はハマらないけど。と。
面白い。と言ったのも、客観的に読んだら。との前提で。なら主観的に読んだら面白くない。って事なんだろう。
考え過ぎる悪い癖。でも当たってると思う
この後の話も特に大きな話題がない。インチキ占い師も、俺が不思議がった事を書くだけだったし、あとはほとんど俺の苦労話だ。俺がこうして、こうなった。という。
イヤな気分になると、思い浮かぶ言葉が、やるべき事をやる。思い付くのはゾンビの摂取。
俺は、走り出した。自己嫌悪から逃げるように。
思い切り走っても疲れない。疲れて何も考えない状態になりたかった。
やるべき事がない時にネガティブになると、引きずる。時間があるからだ。
平穏だと色々考えてしまう。それが調子良い時だと楽しいのだが、一度、自分の弱さと向き合うと、イヤになってしまう。
早く明日にならないかな。そうしたら、こんな事を考えなくて済む。
明日はやる事があるからだ。
ゾンビの摂取を考える。思考は集中する。
周りに神経を張る。逃げるゾンビを川のそばまで誘導し、服を脱いでからゾンビの汚れを適度に落とし、掴まれないよう両手を折り曲げるように折り、後ろ首に噛みつく。
身体を洗い、喰べ残した身体を奥の方に投げ捨てた。
帰りは景色を観ながらゆっくりと歩いた。考える事は明日の事。
持ってく物。持ち帰る物。大勢で行くだろうからどこに泊まれば最適かを考えてく。
コンテナハウスの道路前に人影。ツトムさんだった。明日の話だろう。
[今夜に出発だ。必要な物はあるか?]
ツトムさんは前置きもなく言った。
[懐中電灯位です]
と俺も余計な会話はせずに必要な事だけを話す。裏から、プロパンガスの荷台を引っ張り出す。
[これは頑丈ですし、たくさん運べます]
[他に必要な物は本当に要らないのか?ナイフとか、ロープとか]
[革手袋ですかね。でも道中探せますし]
[用意する。何か食べたい物があるか?]
[皆さんと同じので大丈夫です]
[そうか。遠慮はしなくてもいいぞ。遠征行くと誰かは必ず死ぬ。行くヤツは好きな物を食べていい事にしてるんだ]
ツトムさんは言う。そんなに危険だとは思わないが。と思うが顔にも口にも出さない。
[人減らしは今までやってたのですか?]
俺は言った。
[いや、任せるヤツがおらん。今回が初めてだ]
本当か嘘か分からない。ツトムさんの顔からは読めなかった。
[今回はお前入れて五人だ。必要なのは、食料。缶詰中心。調味料。そして灯油。あとは任せる]
俺はうなづく。
[御飯を食べたら出かける。また来る]
ツトムさんは帰ってく。




