現実.42
あの頃からだろう。志織をはっきりと尊敬しだしたのは。
俺は桜井先生の所を何回か書き直した。
文章がウソ臭いというか、カッコ良すぎた気がしたからだ。
毎日かき集めた食料や生活用品。それに平穏で安全な場所を含め全て譲った。
今思えば、自分でもあり得ない。あの時なんであんなにアッサリと手放したのだろう。
志織が、仕方ないね。と言ったからだ。
志織がお菓子を惜しみなくあげていたからだ。
今思えば、志織に負けたくない気持ちもあった。
志織が道を示してくれる。
出て行く時も志織が誘導してくれた。
あの時の志織は小学校六年生。いくら大人びて、マセていたとしても気付けるのか?
俺が小学校六年生で志織の立場なら…気付けないだろう。俺から決断は出来ない。しない。ましてや、その日のうちに出ていく。決定されたら、素直に従えるだろうが、自分からは言い出さない。しかも、退屈だから出てってもいいよ。なんて相手を気遣う言葉は絶対に思い付かない。
出てってもいいけど、絶対俺を守ってね。と言えるくらいだ。
そういえば、志織は自分から、私を守って。というような言葉は言ってない。
車の時くらいか?助けて。と求めたのは。
なんだかんだと俺は志織に頼ってるのだ。
自分で決められない。志織が背中を押してくれるか、手を引っ張ってくれないと。
守ってやる。なんておこがましい考えだ。
三浦家の時も。志織次第で留まるか、出てくかを決めている。
弱気の虫が這い出てくる。
もっと自分を信じろ。三年もの間、志織を守ってきたじゃないか。どうあれ志織は今、無事でいる。俺がいなかったら志織は死んでたかもしれない。いや俺の方が志織がいなかったら死んでいたが。
志織がせめて男で同い歳だったら、こんな負い目を負わなくて済んだのだろう。
女の子でしかも歳下。子供に助けられている。
本当に十五歳か?と改めて感じた。
今まではそんな事は考えなかった。ずっと一緒だったから。今は独りの時間がある。しかもたっぷりある。
ネガティヴになる。イヤな思考になると思い付くのは、やるべき事を考えろ。だ。そうして逃げてきた。
正しいかは分からないが、間違いではないと思う。
グダグダ考えても現実は良くならない。なら少しでも良くなるような事を考えるべき。
やるべき事。矢を作り出す。乗り気はしないが、作っていく。いつの間にが没頭する。夢中になった。




