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その三「霧」

遅れてしまい申し訳ありません。


少しは読みやすくなったかと思います。


お楽しみいただければ幸いです。

私は、ぼんやりとしながらも、かすかに周りの気配を感じ取っていました。

ざわざわとしていて、皆さん一体なんの騒ぎをしているのでしょうか。


あぁ、たしか、そう。

私は熱を出しているみたいです。

あの男の子が言っていました。

それでも、思考がはっきりしません。

集中ができないのです。

体が火照って、頭が回らなくて、なにも考えられないのです。


しばらくそうやってぐるぐると視界が歪むのに任せていましたが、やがてそれも治まってきました。


少し体調が良くなった気がしたので私はゆっくりと体を起こします。

まだ、全快には程遠いようです。

「起きたんだね」

その声の方向に、私は振り向きました。

隣のベッドの男の子でした。

「ええ、起きました」

「みたいだね」

今度は彼がベッドに寝転ぶ番でした。

彼は大の字に寝転びます。

私は、彼のベッドを見て、あることに気づきました。

「あの、羽毛ぶとんはどちらに?」

「あぁ……」

彼は上を向いたまま、自分の顔を、真上から指さしました。


「下だよ」

「え?」

どういう意味でしょうか。

その答えについて考える必要はありませんでした。

「つまり、ベッドの下かもねってこと」

彼は微笑みました。彼は続けます。

「それにしても、昨日のことを覚えてたんだね」

「昨日のこと? あなたは寝ていたでしょう?」

「違うよ」

彼は笑いをこらえながら言いました。

「ぼくと昨夜話したじゃないか」


「昨夜?」


私がそれを理解するのに、時間はさほどかかりませんでした。

窓に寄りかかっていた彼と、ここにいる彼は同一なのです!

なんて単純なことを見逃していたのでしょう!

私は妙に納得して、思わず何度か頷いてしまいました。


「覚えてた?」

「はい」


私はすこし気分が悪くなりました。

何か、忘れてるような、そんな気がします。

そんなとき、ドアが開かれました。

案の定、私はガチャリという音にびくりと来ます。

これはしばらく、治る気配がなさそうでした。

なんせ、ずっと前からの癖でしたから。

何かがおかしいです。

そう。

ずっと前?

昨日ではなくて?


「元気かしら、二人とも」

私の意味のない妄想をよそに、バルマ看護師は私たちに言いました。

彼は、彼女を見ると一瞬だけ無表情になりましたが、やがて、口元をわずかにあげて微笑む、いつもの顔に戻りました。


「元気です」

私は答えました。

バルマ看護師はニッコリと笑ったあと、

「あなたの病気について、いくつか質問をしたいんです。シェイパー先生のところへ行きましょう」

と、私を見て言いました。

私は頷いて、スリッパを履きます。

バルマ看護師は、彼には目もくれずに、私にただ一言、「いきましょう」と言いました。

「また」

私は、彼に言いました。

「うん、またね」

彼はそう言いながら軽く手を振っていました。




「うん、じゃあ始めようか」

「はい」

白衣を着たシェイパー先生を前に、私はすこしぼんやりしながら眺めていました。

「昨日は熱が出て大変だったけど、大丈夫だったかな」

「はい。同室の男の子が助けてくれました」

「そうだったね。どう助けてくれたのか、覚えてる?」

「いいえ。ぼんやりしていて、よく覚えていません」

「そうか。昨日はすぐ熱が下がったから、ただの風邪みたいなものだと思う」

「はい」

シェイパー先生は何事かを私のカルテに書き込みました。

「うん。じゃあ次の質問だ。君はそもそも、なんで入院していたんだっけ?」

「手術の為です」

シェイパー先生はまたメモを取っています。

「なるほど。どういう手術だったかな?」

私は答えられませんでした。

なんの手術だったか、よく思い出せなかったのです。

「それは、えっと」

「もういいよ、ありがとう」

私のしどろもどろな答えを遮って、シェイパー先生は言いました。

「私は、なんの病気なんですか?」

「これからゆっくりとわかっていこう。とても難しい病気なんだ」

「治るんですか?」

先生はにっこりと笑って言いました。

「もちろん。この病気に関してはね、先生はとっても詳しいんだ」


部屋に帰ると、男の子はいませんでした。

バルマ看護師は、彼のいないことを確認すると、はぁ、とため息をつきました。

「またいなくなってるわ」

「あの男の子ですか?」

「そう。いっつもどこかに行っちゃうのよ」

「心配なんですか」

「仕事だからよ」

バルマ看護師は、とてもくたびれた様子でしたが、私の視線に気づくと、冷めた笑みを浮かべ、言いました。

「シャワーを浴びたほうがいいと思うわ。シェイパー先生も良いって言っていたもの」

「はい。浴びたいです」

「それは良かった。10分後に迎えにくるわ、準備しておいて」


私のシャワーの準備はとてもはやく済みました。

私は暇を潰そうと思って、枕元に手を伸ばします。

母からもらった本を読もうと思ったのでした。

しかし、

本がありません。


「あれ?」


自分の背中に冷や汗が流れるのを感じました。

母からもらった大切な本をなくしてしまったのです。



六話で終わらなくなるかとも思います。


今後ともよろしくお願いします。

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