第3話 準備
メイドに案内され王城の城壁の門を潜り抜け外に出た。陽はまだ高く午後すぎくらいだと窺える。日の出と日の入りが地球と同じだとだが。
王城を出た時マップが更新され、王都全体がマップに映し出された。
行ったところはマップに表示されるが行ったことがない場所は黒く暗転している。というのも、どうやらエリアごとに仕切られているようだ。例えば、ここアレクセイトの王都は王都としてエリア分けされている。つまり、王都より外は黒く塗りつぶされていて見ることが出来ない。ちなみに王城は王城エリアとして区画分けされている。
他には、拡大や広域、3Dのように立体的にものを確認することができる。流石に3Dで人は無理なようだが、緑の光点で表されている。
マップをスクロールするように念じれば、スクロールされ王城を見てみると幾つか青色の光点があるが街で出会った人は皆、緑だ。
緑が無関心、青が好意的や友好的な存在という意味だろう。
マップの有能さに驚きながらも辺りを見回すと街並みは閑散としていて人並みが少ない。馬車が数台走っているがそれだけだ。
ここは俗にいう貴族街という奴か。
周りの家は所謂屋敷のようなものでそこら中に豪邸が建ち並んでいる。
まずは服を変えないとな。さすがに制服は目立つだろう。
これからの行動指針を決め、石畳の上を歩いていく。
街並みを眺めながら30分ほど歩いていると5メートル程の壁が見えてきた。壁には扉の開いた門があり、そこには兵士の詰所のようなものが併設されていた。門の端には衛兵と思われる者が居て通る時に訝しげな目線で見られて気まずかったが、難なく通ることができた。
やはりの服装は奇異の視線で見られるようだ。出来るだけ早く服を変えよう。
門を潜るとそこは貴族街とは打って変わって、人に溢れかえっていた。様々な店が立ち並び、露店などが所狭しと並んでいた。
気配遮断を感覚的に使い、気配をころしながら目立たないよう人混みに紛れた。
スキルを得ると自然と使い方がわかるんだな。不思議な感覚だ。
果物を売っている露店や肉を焼いたもの、お好み焼きのようなものを売っている露店を横目に見ながら、道を進む。
貴族街を出て10分くらいした時だろうかそれは唐突に起きた。
ポーンっと電子音が鳴り、気配遮断のレベルが上がったとアナウンスされた。
レベルが上がるだけでアナウンスされるのか、急になるとビックリするな…脳の中に直接響いてる感覚だから、変な感じなんだよな。レベルアップ時のアナウンスをオフに出来ないのか…………できたみたいだな。
レベルアップ時のアナウンスをオフにし、しばらく進んで居ると店先に服の絵が描かれその下に衣服店と書かれた看板を見つけた。
ようやく見つけた。
店の中に入ると、麻の服やチュニックの様なものなど、現代日本と比べると品質的に劣るものばかりだった。
まあ、見た感じ街並みも中世ヨーロッパ風だしこんなもんか。
「いらっしゃいませ。本日はどのような服をご所望ですか?」
声をかけてきたのは、茶髪を後ろに束ねた中年のおばさんだった。
「旅に適した服を適当に見繕ってくれ。予備として2着ほど多めに。あと下着も何着か頼む」
「かしこまりました。試着はなさいますか?」
俺は少し考えた後、頼むと答えた。
「では、こちらへ」
おばさんに促されるまま奥に進むと衝立がありそこで試着するらしい。
黒のフード付きローブ1枚と白に近い少し黄ばんだチュニックと黒のズボンを予備合わせて3着と下着も同数購入する事にした。
「購入するのを着て行きたいんだが…あと着ていた服を売りたい」
ブレザーを今後着る機会もないだろうし、資金の足しにしたほうがいいしな。
「かしこまりました。では購入分の代金が6,300ゴールドになります。こちらの服の価格は140,000ゴールドになります。買取価格から代金を引かせていただいて、133,700ゴールドが買取価格になります。」
ポーン、スキル商売を取得しました。
俺は服の買取価格から購入分の代金を差し引いた額を受け取り、買った服を手に店を出た。
思った以上に制服の買取価格が高かったな。ここに来るまでに貨幣価値を調べといたが金貨が10万ゴールド、銀貨が1万ゴールド、銅貨が千ゴールドとなり、その下に銭貨と石貨がある。それぞれ、百ゴールドと十ゴールドの価値があることが露店で買い物をする人たちによってわかっている。それと商売スキルか、さっきのおばさんやたまに露店をやっている人が持ってたスキルだな。
買い物に満足し少し裏道に入り、周りに人がいないかマップにて確認する。
よしいないな…たしかメニューにストレージがあったはず、荷物が邪魔だから入ればいいが……
手に持った買ったばっかの服をストレージに収納したいの考えると手に持っていた服は音も無く消えた。メニューを開いてストレージを見てみると、ちゃんと布のチュニック×2と布のズボン×2と下着×3となっていた。下着を選択してみると、下着の画像が表れ、物が重複していても欲しいものが取れる仕様となっていた。そのまま持っていた金も全てしまい、ようやく手ぶらになった。どうやらストレージは念じるだけで出し入れが自由なようだ。
これでひとまず安心だな。今何時くらいだろう?
そう考えた瞬間、左上のHPバーと思われる緑の棒の上に14:23と表示され暫くすると消えた。
うおおぅ!?便利だな、ってか異世界って1日24時間なのか?まぁいいか。
とりあえず武器と旅に必要なものと食べ物、調味料、調理器具を買って、あとは………靴だな…
流石に上履きのままだとこの先心配だ……
表通りに戻りいろいろ売ってそうな道具屋を探す。さすがに売ってるものまではマップで表示されなかった。だが、道具屋はすぐに見つかった。
道具屋の中は雑多な感じだった。色々なものが売っており、何これという意味わからない物まで売っていた。俺はそこで旅に必要なテントやリュクサックのような背負えるカバンや複数の袋、タオルや石鹸、水筒、調理器具、各種調味料に至るまでを買い揃えた。だが調味料の砂糖は存在しなく、塩も高価で香草ばかりだった。買ったばかりのバックに買ったものを無理やり押し込み、ここら辺の地図はないかと店主に尋ねる。すると店主はカウンターの裏から1枚の紙を取り出し、手描きであり安く買い取ってそれ以降売れない物らしくタダでくれると言ってくれた。礼をいい、店を出ようとした所である物を見つけた。追加でそれを購入し、店を後にした。
先ほどと同じ手順でストレージに荷物を収納し、次は武器を買いに行く。マップで武器を売ってる場所を探すと少し行ったところに武具店があったので先ほど貰った地図を見ながら、そこへ向かった。
向かっている途中で干し肉や野菜、果物と行ったものを購入し、バックに入れる振りをしてストレージに収納した。ぶっつけ本番の偽装収納だったが無事成功したようだ。
武具店は王都にあるからなのか、無駄に規模が大きかった。店の奥には工房があるようで裏手から白煙が上がっている。
店に入ると如何にも冒険者といった感じの者が数人、武器や防具を見ていた。
俺は店の中を一度見渡した後、まっすぐカウンターの所にいるゴツいおっさんに話しかけに行った。
「靴と剣、後動きを阻害しない軽い防具が欲しいんだが……」
俺がそう言うとゴツいおっさんはこちらを上から見下ろす形で一瞥し、ちょっと待ってろといい、店の中の物を取ってきた。
「剣は鉄の剣でいいか?靴は履いてサイズを確かめてみろ。鎧は動きを阻害しないとなると皮の鎧だな。金があるなら、もっと良いのもあるが、見た所あんま金持ってなさそうだからな」
ゴツいおっさんはそういい、頼んだ品をカウンターの上に置いて俺に渡してきた。鉄の剣は両刃の所謂片手用直剣であった。靴は靴と言うよりブーツだった。膝の下ぐらいまでありそれを革の紐で縛るらしい。皮の鎧は持った感じとても軽く、胸だけを隠す程度の物だった。
それらの物を買って、その場で身につけ店を出る。すると時間は17時を過ぎており、あたりは暗くなり始めており、太陽はだいぶ傾いていた。
流石に今日中に王都を出るのは無理か…仕方ない宿を取るか。
履いていた上履きをバック経由でストレージにしまってから、マップで宿を探し、表通りの喧騒が徐々に夜の静けさへと変わりつつある道を進んでいった。
宿屋の名前は腹ペコ亭。
馬鹿にしてるのかと言いたくなるような名前だ。3階建てで中に入ると、右側は食堂になっているようで奥から食欲をそそる良い香りがするのでおそらく厨房があるのだろう。少し進むと女将さんが出迎えてくれた。
「何泊するんだい?ウチは一泊朝夕食付きで銀貨1枚だよ」
「1泊で頼む、それから明朝にここを立つので昼飯を作って欲しい。もちろん代金は払う」
王の情報は正しかったな、と思いながら銀貨2枚を取り出す。
「なら昼飯分は銅貨2枚でいいよ。二階の205号室があるからそこが部屋だよ。はい鍵ね。夕食はもう出来てるから食べるなら食堂へ行きな。朝食は5時から8時までだからそれまでに来な」
「分かった」
銀貨1枚と銅貨2枚を渡し、部屋の鍵を貰いそのまま食堂へと向かった。
席に座っていると女将さんが料理を運んできた。献立は黒パン、野菜となんかの肉が入ったスープ、果物一つだけだった。
感想ははっきり言って不味いだ。異世界転移ものの主人公はよく異世界の飯は不味いと言うが想像以上だ。パンは歯が取れるのでは無いかと思うほど硬く、スープは味がしないと感じるほど薄味、唯一果物だけは地球と変わらなかった。マンゴーのようなビワのような不思議な果物だった。名前はビワゴーだった。滋賀県民が怒りそうな名前だな。
食事を終え、部屋に向かう。汗掻いたし風呂入りたいけど異世界に風呂はないんだよなぁ、などと考えながら鍵を開け部屋に入る。入ると右手には扉があり、そのまま進むとベットと机と椅子一つづつ置いてあり、とても簡素な作りだった。
装備を外し、ベットに腰掛ける。
改めて考えると本当に異世界に来てしまった。あの腐った世の中から解放されたのだ。理不尽に溢れ、他人を裏切り、人が人を騙し合い貶め合い、妬み蔑み、私欲に満ちた世界。そこから俺は解放されたのだ。これからは自由だ、俺のやりたいようにやる。異世界主人公たちはこのような快感を味わっていたのか…。
まず異世界に来て、やることっていったらハーレムだよな。常識的に考えて。うん、それ以外あり得ない。その為には強くならなくては、どんな理不尽でも捻り潰せる力が…。
とりあえず、寝よう。今日は色々疲れた。明日のことは明日の俺に任せよう。
俺は装備をストレージにしまい、ベットに潜り込むと泥のように眠った。
ってかベット硬え………