第2話 計画通り
気が付くとそこは古めかしい石造りの部屋だった。空気は埃っぽく、部屋の端には何やら埃のかぶった木箱やらが置いてある。窓が幾つかあり太陽の光が差し込みこちらを照らしている。
「せ、成功した……成功した!!!」
「やったぞ!!成功だ!!」
歓喜の声が聞こえ、そちらに顔を向けるとローブの様なものを着た人、騎士鎧の全身甲冑を纏ったもの、そして煌びやかなドレスを身に付け、胸の前にシナを作りこちらを潤んだ瞳で見つめる綺麗な金髪を伸ばした碧眼の美少女を合わせた11人の人がいた。彼らは喜びの声をあげ、嬉しさを共有し合っている。
「……うっ………こ、ここは…?」
声のした方を見るとクラスメイトの田中が倒れており、よく見ると俺の周りにはクラスメイト達に加え担任の先生まで倒れていた。
ここまではテンプレだな……。まずはこの世界の情報を集めなければ。こういうのは大抵呼び出した国が敵だったりするからな。何より異世界にきてまで国の道具として使わされるより異世界を旅して見て回ったほうが面白そうだ。早々にここから出た方がいいだろう。
クラスの全員が起き上がっても、この世界の住人と思われる彼らは今だに喜び騒いでいてこちらが起きたことに気づかない。
「あ、あの……」
光道が控え気味に喜んでいる連中に声をかける。
「っ!す、すみません!申し遅れました、私はアレクセイト王国第一王女レイシア・フォン・アレクセイトと申します。この度は召喚にお答えくださりありがとう御座います。ここはアレクセイト王国王城にある召喚の間です。勇者様方にお願いがあり召喚させていただきました。」
レイシアと名乗った金髪の美少女は淡々とまるで定型文の様に淀みなく喋った。まあ、王女だろうと思ったよ。
「ゆ、勇者?」
天風が戸惑いながら聞き返す。
「はい。皆様は異世界から召喚された勇者様です。」
レイシアは粛々と返す。
「い、異世界だと?そんなの知らない!!ここはどこだ!早く元の場所に返せ!!」
クラスメイトの1人が叫ぶ。
すると周りの生徒たちも口々に元の世界に返せと喚き出す。泣き出すものや怒り叫ぶもの、中には異世界と聞いて静かながらも喜んでいる者もいる。レイシアはそんな彼らを困惑しながらも宥め口論している。
その間に俺は異世界の情報を集めるため、そしてこれから起こるであろうイベントに備えある言葉を心の中で唱える。
(ステータス!)
「……………」
しかし何も起こらない。
この言葉じゃないみたいだな、いくつかためすか。
2つほど唱えてみたが何も起こらない。やばい早くも詰みそう…。他に何がある……ならこれでどうだ!3度目の正直!!
(ステータスオープン!)
すると半透明の板が目の前に現れた。よし、成功した!
まずは端から見てくか。
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名前:ジン・トウドウ
種族:人間族
性別:男
年齢:17
レベル:1
HP:100/100
MP:100/100
STR:30
DEF:30
AGI:30
DEX:30
INT:30
スキル:
経験値獲得上昇
異世界言語理解
ユニークスキル:
多重領域
能力取得簡易
能力成長速度上昇
称号:
異世界人、巻き込まれた異世界人
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ふむ…。スキルは2つか、基準値がないからよくわからないがユニークスキルが3つあるのはいいことだろう。基本ステータスはオール30だが、これは低い方なのか?巻き込まれた異世界人ってそんなテンプレな……
とりあえず、ユニークスキルのメニューを使ってみるか。
(メニュー)
唱えてみると視覚とは違うまた別の器官を得たかのような感覚の場所に文字が表示された。
そこには“初期設定”とだけ文字が書かれている。それを選択するよう念じると何やらたくさんの文字が出てきた。
それはゲームのオプションのように各種設定できるようだった。
これで設定するのか…
まず目についたものにマップがあり、その横にオンとオフと書かれている。これをオンにすればいいのか、とりあえず全部オンにしとけばいいか。
一番下の完了を選択すると文字は消え、代わりに視界の右上の端にマップが表示され、マップには中央に小さな白い三角形があり、その周囲に青い色の光点や緑色の光点が乱立している。白の三角形が自分だろうが他の色はクラスの奴らやそこにいる騎士鎧を着ている奴らを表しているんだろう。色の意味は分からないが今はいいだろう。
左上には緑のバーとそのしたに青のバーが表示された。おそらく緑の方がHPバーで青がMPバーだろう。
それらは不思議と視界の邪魔にはならず、本来ならそれらが邪魔して見えないはずの場所もしっかり見ることができた。
これは便利だな。他の機能はないのか?
ふと、今だクラスの奴らと話し合っているレイシアを見ると頭上に青い色をしたカーソルが現れた。それはクラスメイトたちや騎士達にも頭上にカーソルがあるが色が青や緑だったりする。
レイシアのカーソルに意識を集中するとステータスが見えた。
ーーーーーーーーーーー
名前:レイシア・フォン・アレクセイト
種族:人間族
性別:女
年齢:16
レベル:12
HP:120/120
MP:340/340
STR:47
DEF:37
AGI:56
DEX:55
INT:89
スキル:
召喚魔法 Lv5、水魔法 Lv2、作法 Lv5、魔力操作 Lv2、剣術 Lv1、杖術 Lv2
ユニークスキル:
称号:
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これもメニューの能力だろう。
この能力は普通の人がステータスオープンと唱える事によってみれるステータスとは違い、見たいと願う願うものによって追加される情報がある。例えばレイシアの職業がみたいと思いながら見るとステータスに職業アレクセイト王国第一王女という情報が追加された。
レイシアから視線をそらし壁にかけてあったカンテラを見てみる。よく見てみると火はなく電球のように発光している。
異世界にも電気が通っているのか。
ん?でもどうやって電気を供給してるんだ?
まさか電池まであるのか異世界?!
そう考えていると
ーーーーーーー
カンテラの魔道具
光属性の込められた魔石によって発光する魔道具。
ーーーーーーー
カンテラの情報がみれた。
どうやらこの異世界にも魔石が存在して動いているだけで電気が通ってるわけじゃなさそうだ。まあ魔石が電池のような役割をしてるわけだが。
この能力は物の鑑定もすることができるらしい。
おそらくこの能力を使えば知りたいもの情報を、制限はあるだろうがなんでも見ることができるのだろう。
他の能力を調べるため、もう一度メニューと念じると、ステータス操作、ストレージ、設定と出た。
試しにステータス操作を選択するとステータスが半透明の板ではなく、メニューのような感覚の所に現れた。
とりあえず試しに名前を選ぶように念じて見ると名前の右側に点滅する棒が現れた。
これはパソコンとかで文字打つときに出てくるあれか。だとすると名前が変えられるのか?
試しに名前を消そうと思うと名前の欄が空欄になった。
今はこのままでいいか。名前を元に戻し次にいく。
とするとスキルとかが隠せるとかそういう機能か、普通に考えて基礎ステータス部分はいじって数値を変えてもその分強くなるとかはないだろう。多分看破系のスキルに対応するために使うんだろうな。
試しにユニークスキルのメニューを隠したいと念じてみる。するとメニューの横に(隠蔽)と現れた。
これで隠せるのか。とりあえずユニークスキルが3つもあると厄介ごとに巻き込まれる自信しかないのでユニークスキルを全て隠し、称号の巻き込まれた異世界人を隠した。
と同時に周囲に声が響き渡った。
「静まれぇ!!レイシア王女殿下にそのような態度、首を切り落とすぞ!」
騎士鎧を着た1人が剣を抜き放ちレイシアを守るように前に出て、こちらを威嚇している。それを慌てたようにレイシアが宥めていた。
すると光道が…
「みんな一旦落ち着こう!ここで騒いでも何も始まらない、まずは言う通りに従おう」
光道の声掛けにクラスの奴らは一応は静かになったみたいだが、まだ戸惑いはあるようだ。
「すみません。まずは父様に会っていただきそこで詳しい説明をしたいのですが、付いて着て来てもらえますか?」
レイシアの申し出に周囲はしぶしぶといった感じで頷いた。
召喚の間を出てレイシアの後についていく。クラスの奴らは皆見たことないほどの豪華絢爛な内装の廊下を眺めながら歩いている。俺はその中の後ろらへんを気配をころすようにしてついていく。
すると、突然頭の中に電子音がながれ、スキル気配遮断を取得したと流れた。
何事かとステータスを確認するとスキルの欄に気配遮断Lv1と表記されていた。
さっきのメニューの初期設定のときのやつにアナウンスってやつがあったがこれのことか。
メニューの仕様に納得していると大きな扉の前についた。ここが王のいる謁見の間だろう。扉の両端には軽鎧をきた兵士が槍を持って立っており、その2人が重そうな扉を開き俺たちを招き入れた。
中に入ると正面の少しの段差を上がったところに豪華な椅子に頬杖をつきながらふんずりかえって座っている中年の男性がいた。おそらくこいつが王だろう。その横には王妃と思われる女性と後ろに護衛であろう5人の騎士鎧を纏った物が控えていた。
「お父様連れて参りました」
レイシアが跪き頭を垂れながら、そう告げた。
「うむ、ご苦労であった。それでそのものたちが件の勇者か。余はこの国の王、31代国王アルス・フォン・アレクセイトじゃ。まずは説明しよう。今この世は危機に瀕しておる。魔族と呼ばれる者とそれの上に君臨する魔王によって世界は征服されようとなっておる。各種族と魔族が度々戦争や小競り合いを続けておる。そこでお主ら勇者達に魔王を討伐して世界を救って欲しいのだ。」
王の言葉を聞き、クラスの奴らはざわざわと周りの人と話し合い困惑している。
そんな中光道が前に出る。
「王様、私は光道隼人と申します。王様のお話は分かりました。ですが、私たちは元の世界に家族や大切な人たちがいます。帰る方法は無いのですか?」
光道がレイシアと同じように跪き頭を垂れた後、そう述べた。
「うむぅ………、帰る方法は判らぬ。じゃが、古来より魔王の城の宝物庫には異世界へ渡るための古代秘宝(アーティファクト)があると言い伝えられておる。それがあれば、なんとかなるやもしれぬが……」
王が申し訳無さそうにそう告げた。だが、俺にはその顔、言葉がどうにも胡散臭く思えた。帰り方法なんか何も考えず呼び出したんだろうな。その古代秘宝とやらの情報も疑わしい。
「そ、それじゃあどのみち魔王を倒すしか………」
クラスの奴らは皆暗い顔で俯いていた。
「大丈夫だ皆んな!魔王を倒せば帰れる!みんなで力を合わせて頑張ろう!!」
光道はそう宣いながらみんなを鼓舞した。
「うむ、そうじゃ、お主達には特別な力がある。勇者として召喚された者にはその身に力を宿して召喚される。」
「特別な力?」
王の言葉にクラスの誰かが聞き返す。
「そうじゃ、これからその力を確認してもらう。皆、ステータスオープンと唱えてみてくれ。」
王の言葉に皆戸惑いながらも唱え始めた。
「なんかでた!!」
「なんだこれ!!」
口々に驚きの言葉をあげる。
先ほど見たばかりだが一人だけやらないのも怪しまれると困るので俺も一応唱える。そこには先ほどメニューによって改変されたステータスに気配遮断が加わった状態でステータスが現れた。うん。ちゃんと発動してるな。
「それがお主たちの能力を表したものじゃ。普通に生活しているだけの人間族の基礎ステータスは大体20前後じゃ。お主たちはそれよりも大きく上回っているはずじゃ。」
一般人は20なのか、すると俺の30ってのは案外低いのか。一般人に毛が生えた程度で勇者とか無理だろこれ。
クラスの奴らのステータスでは全員偏りはあるがだいたい80〜120前後はある。
HPもMPも皆200〜300前後で多い者だと500の者もいる。
「ステータスを確認したところで皆に紹介したい者がおる。」
王がそう言うと後ろに控えていた1人が前に出てきた。
30くらいの髭を少し伸ばしたナイスミドルなおっさんだ。
「私の名前はダリル・シーザースだ。これから勇者殿の戦闘訓練の指導を担当する。よろしく頼む」
ダリルと名乗ったナイスミドルは続けて言う。
「まずは勇者殿たちのステータスを把握したい。我々が5人が確認していくから並んでくれ」
そう言われクラスの奴らは戸惑いながらもステータスの確認を行われていった。通常、他人のステータスは見ることは出来ないが、本人が開示を認めると認めた人物のみ見ることができるようになるらしい。俺も列に並び順番を待った。
すると隣の列から声が上がった。
「おおっ!このステータスは!ハヤト殿のステータスは凄いぞ!」
騎士の1人にそう言われ光道は照れている。どうやら光道のステータスは凄いようだ。
それとは逆に反対の列では懐疑的な声が上がっていた。
「……これはどういうことだ?」
騎士が困惑した声をあげ、難しい顔をしている。ステータスを見てもらっていたのは鈴木だ。鈴木の顔はここからではよく見えないが不安なようすだ。
それから俺の順番を経て皆のステータスの確認が終わった。何やらダリルと王が話し合っている。話が終わったのかこちらにくるとダリルは皆の注目を集めるように態と咳払いをした。
「んん、皆のステータスを確認させてもらった。皆は十分勇者になれる力を持っている。…しかし、特別な力を持ってないものが2人ほどいた」
その言葉を聞き、クラスの奴らは安堵すると同時に不思議な顔をした。
「えっと…それはどういうことですか?」
光道が代表としてダリルに聞く。
「本来、勇者として召喚した者は称号に勇者というのが付く。その称号を持つものは必ずユニークスキルを一つ覚えているはずなんだが……そのうちの1人は称号もなくユニークスキルも持っていなかった。もう一人は持っているのだがそのスキルは死にスキルで有名でな。戦力にもならず、尚且つ呪われたスキルと揶揄されているんだ」
なるほど、そうなのか。この国から出るための理由を探していたがどうやらその必要は無さそうだな。それはそうと死にスキルとはどんななんだ?
「それはどんなスキルなんですか?」
青木がダリルに尋ねる。
「不運だ。ステータスを一定値低下させる。その効果はパーティを組んだものにも影響する」
その言葉を聞き、クラスの奴らはガヤガヤと騒ぎ出す。
「そ、それは誰なんですか?」
天風が恐る恐る聞く。
「そのユニークスキルの持ち主は、イチロー・スズキ殿だ。勇者の称号が無くユニークスキルを持っていなかったのはジン・トウドウ殿だ。」
その言葉を受け、周囲の視線が俺と鈴木に集まる。佐伯が爆笑しながら鈴木に絡みに行く。
「ぎゃはははははは!!お前の人生そのものじゃねえかそのスキル!!まあ半分は自業自得かぁ!!ぎゃはははははは!!」
それに合わせて佐久間と佐藤も鈴木に絡みに行ったようだ。周りは俺と鈴木に何とも言えない表情で視線を向けた。
「ごほんっ!勇者の皆は部屋へ案内するが、その2人は少し残ってくれ」
王が大きく咳払いをし、俺と鈴木以外を下がらせた。
クラスの奴らは心配そうにこちらを見ながらメイドに案内され部屋を出て行った。
謁見の間には俺と鈴木と最初から部屋にいた王達に加え王女であるレイシアだけが残った。
今がチャンスかな、出来るだけ早くこの国から出た方が面倒ごとがなさそうだし。
俺はこの国を出るために王に話しかけた。
面倒なことになりそうだし、一応敬語を使っとくか。
「王様。私は戦力になるどころか勇者でも有りません。このままここに居ては迷惑をかける事になるでしょう」
「うむ…確かに勇者でないとすると………」
王は俺の言葉に口ごもる。
「ですが、こちらとしても勝手にこの世界に呼ばれた身、ならばこの世界を旅しようと思います」
「しかし、力を持たぬお主が旅となると街の外には魔物もおるし、冒険者を雇わなければ無理じゃと思うぞ」
ほう…やはりこの世界にも冒険者という職業はあるのか
「でしたら、厚がましいようですが冒険者を雇えるだけと生活の当面の資金を頂きたいのですが」
「うむ…しかし……いや、このままここにいられるより………」
王はなにやら独り言を言いながら考え込んでいる。
「………わかった。では用意しよう。」
そういって扉側に控えていたメイドに合図を出し、小さな麻袋を持って来させた。
「金貨3枚と銀貨20枚と銅貨30枚を用意した。銅貨は10枚で銀貨1枚の価値に当たり、それぞれ10枚で上の硬貨の1枚と等しい勝ちになる。宿では銀貨1枚あれば足りるじゃろう。」
「ありがとうございます」
「イチロー殿はどうする?」
王がそう声をかけるが鈴木は考え込んでいる。いつまでも鈴木が答えず、沈黙が痛くなってきたため、俺は出ることにした。
「王様、私はこれにて」
「うむ、達者でな」
王は軽く挨拶を返してきた。もう用無しということか。
謁見の間を後にしようと踵を返すとレイシアがこちらを申し訳なさそうに見ていた。俺はそのまま扉に近づき、メイドによって城の出口まで案内されたのだった。
ふふっ、計画通り……