とある美容室での会話
眠かった凄く。
昨日の仕事は、残業二時間程で帰れたが、明日は休みだと、帰りにDVD を借りようとしたのがいけなかった。
欲しいゲームを見つけてしまい、徹夜でやってしまった。気付けば12時で、眠ったら15時予約の美容室に間に合わないからそのまま来た。
私の頭の中は、『上手に焼けました~』がこだまする。後、炭鉱掘りの音。
美容師さんが、頑張って話し掛けてくる。
平日と言うのもあるのか、客は私ともう一人だけ。
「俺、どうせい――……なんすよねぇ」
「ふあ?」
聞いてなかった。いや、部分的に聞こえた。
え? でも、それオープンなの?
何のアピールなの?
私が聞こえた言葉は、
「俺、同性好きなんすよねぇ」
どうする? 何を期待してこの人は爆弾ブッこんできたの?!
「そ、そうですか~。今お付き合いしてる人が?」
「え? はい」
「幸せそうでなによりです」
「あ、ありがとうございます。それで、何かこうアドバイスとかありますか?」
はぃ? 私は、今のところ異性が対象ですよ?
今までの会話の何処にその要素が?
ハッ! 私男だと思われてる?!
そんな酷い! でも、アドバイス……分かった!
一般的な意見が聞きたいのだね?
「私がどうこう言うことは特にありませんが……お互い好き合っているなら、なんだって良いんじゃないですか?」
「え? あ~、そうですよね。でも、今まで一人で好き勝手出来たのに、彼女がいるとたまに窮屈に感じて」
「え? 彼女?」
「はい」
分かったぁ! あれだね? 彼は完全に彼女になった……心に身体を合わせたんだね? でも窮屈なんて、君のために治療したんじゃないの?
「窮屈なんて……確かに、パートナーが出来ると時間に縛られたりする事もありますが、好きならばそれも嬉しいでしょう?」
「そうなんですけどね。元々俺が一人で住んでた所に、彼女が転がり込んできたというか……何か、まだ慣れないですね」
どういう事? 同棲も始めたの?
良いじゃない! 幸せまっしぐらじゃない?
「貴方の為に、身体まで心に合わせてくれたんだし、そこはどーんと受け止めてあげなきゃ」
「? 身体? 心に? ん?」
「ん?」
「え? ん?」
「……さっき、俺は同性が好きって言ったのよね?」
「さっき、俺は同棲を始めたって言ったんです」
「「…………」」
「大変、申し訳ありませんでした」
「いや、ビックリしましたよ! 通りで何か噛み合わないななんて」
「いや、本当にすみませんでした」
「いやいやいや、俺の方こそすみません」
寝不足って駄目だなぁ。
ちゃんと寝よう。
私は、全く気付いてなかった。私たちの会話にずっと耳をすましている人がいたのを。
私は、知らなかった。この日からメンバーズガードの個人情報を利用して(犯罪)、一人のオカマに付きまとわれることを。
「あははは~」