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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

テンプレ転生と俺の天使

作者: 少々

遠くのほうから声が聞こえた。


はっきりとは聞き取れないがとても心地よい声音である。


それを呼び水にするかのように徐々に意識が覚醒する。


……目覚めて初めて見たのがおっさんのドアップ顔ってどうなんだ。


「……精霊様のご加護があらんことを。」


彼はそうつぶやくと優しく微笑み、俺の額から指を離した。


白を基調とした祭服を着た服装からどうやら神父さんだと予想する。


……うん、なんか神父さんに祝福されたようです。



なんだかんだ流されているが、とりあえず今の状況を一言で表すと、


『異世界転生、テンプレ乙!』


で済むだろう。


最後がどうであったかはあやふやではあるが、確かに俺は死んだのだろう。


呼吸ができず苦しい、と思っていたことだけははっきりと覚えている。


まぁ、死因なんか今はわからないし、考えても仕方がない。


そんなことより、今、この状況が問題だ。


俺は今、妹ともいえる子と一緒に寝ている。


小さな腕で俺をぎゅっと抱きしめ、つかんで離してくれないのだ。


推定は年齢生後半年くらい。


ぽやぽやの産毛は美しいブロンド。


白いぷにぷにとした肌はうっすらとピンクに染まり、小さくかわいらしい唇や閉じた瞼から将来きっと誰もが振り向く美人になるだろう。


そんなかわいい子にギュッとされるだけなら喜んで抱き枕にでもなんでもなってやるが、よだれで顔をべとべとにするのはやめてほしい。


やっと前歯が生えてきたころだからとはわかっているが、それでも洪水のように出るよだれをよだれかけではなく俺で受け止めるのはやめてくれ!


あ、こら、俺の手をしゃぶるな。


自分の指をしゃぶりなさい!


ペッしなさい!


とまぁこんな感じで一日の大半をベッドの上で過ごす俺らだが、何度か魔法を見る機会があった。


一番初めに見たのは俺が初めて目覚めた日の夕方。


メイドさんと思わしき女性が何事かをつぶやいて指先から火を出し、ランプに火をつけたのだ。


あぁ、なんというテンプレ。


それからというもの魔法が使ってみたくてしょうがない。


だってファンタジーだぜ、ファンタジー!


ここでそんなのどうでもいいと言ってのける奴がいたら、そいつはただのやせ我慢野郎か人生達観した奴だと思う。


だが、いかんせん不自由なこの身である。


まずは寝返りから、それから安定した座り方を練習し、それから立ち上がる練習だ!


そうやって地道に練習したおかげで、いまでは(推定)生後一年未満にしては異常な身体能力を手に入れた!


そして、マイシスターは昼寝の後の数時間、メイドさんに連れられ別の部屋へと移動する。


そう、俺に自由フリータイムができたのだ!


ひゃっほぅ!


足音が遠ざかったのを見計らい、魔力を体へ流し身体強化(テンプレを試した結果発見した。テンプレ乙)。


むくっと起き上がりベビーベッドの柵へ手をかける。


腕に力を入れ、柵の上へよじ登り、そのままジャンプ!


体がくるくると回転し、そして華麗に床へ降り立った!


ふっ、決まった……。


一人新体操の後は部屋の隅にある本棚へと向かい、絵本を広げ文字を読む練習。


そもそも子供部屋のせいでここには絵本しかおいてはいない。


だが、そのおかげで読みの練習にはうってつけの教材がそろっている。


きっと本好きの子に育てたいのだろう、乳幼児向けの読み聞かせ用と思われる単語ばかりのものから小学校低学年向けと思われるある程度しっかりとした文章の絵本まで本棚一杯に入っている。


それらを一足先にお勉強させてもらった後、時間的余裕をもって切り上げて早々にベッドへと戻る。


一度ヒヤリとしたことがあったのでそれだけは細心の注意を払うことにしている。


ベッドの上で魔力の循環(これもテンプレ知識)をして魔力開発をしながら妹が戻るのを待つ。


赤ん坊のそばでそんなことをしていいのかわからないから、マイシスターが戻ってきたら終了だ。


その後、ミルクの香りのするよだれを浴びながらうとうとと就寝する。




さらに半年がたった。


我が妹エイミーはすくすくと成長していた。


「ママ」「マンマ(ご飯)」などの単語を話すようになった。


どうやら妹はほかの子より成長が早いらしくメイドさんが嬉々としてお世話している。


「カンナ(メイドさんの名前)」と呼んだ日にはもうメロメロで「お嬢様、わたくし一生ついてまいります!」と熱く語っていた。


それから、よちよち歩きで俺を連れまわしいろんなところへ探検にいった。


とは言ってもベビーベッドの置いてある部屋から夫婦の寝室らしき部屋、それから書斎というドアを挟んでひとつながりになっている部屋だけだが。


そう、書斎。


ついに念願の厚い本を発見した。


部屋の主は多忙なのかずぼらなのか、棚だけではなく机の上から床にまで本が散乱しており、こっそり一冊持ち出してもばれないような気がする。


夫婦そろって出かける日に狙いを定め、念願の厚い本を手に入れることにした。


エイミーが昼寝をしているうちに書斎へ侵入。


『魔法基本講座』というまんまな名前の本に狙いを定め、こっそりと持ち出した。


そうして手に入れた本はベビーベッドの裏側の骨組みと手ぬぐい(洗浄済み)を利用したポケットに隠した。


時間的にもうそろそろエイミーがぐずり始めるだろうからとりあえず今日のところはここまで。


次の日、エイミーを見送った後さっそく本を取り出してみる。


よっしゃ、これで俺も魔法が使える……!


……


……


……結論をいうと、なんというムリゲー。


小学一年生レベルの単語では全く太刀打ちできませんでした。


仕方ないから辞書みたいなものも探して少しづつ解読していきたいと思います。


チクショウ……!



さらに一年が経過したある日、事件が起こる。


エイミーが誘拐されたらしい。


両親との出先でうっかりと離れ、そのまま誘拐。


怪しい男がエイミーを抱えて逃走しているのを目撃した人の証言により迷子ではなく誘拐であると確定したらしい。


何やってんだよパパン。


そりゃ、地上に降り立った天使であるエイミーだから人目を惹くのはしょうがないが、それから守ってあげるのが親の務めだろ。


まぁ、ちっとも読み進まない本にうだうだしていてエイミーの危機を防げなかった俺がいうのもなんだけどな。


ジェシカは顔面蒼白でソファ―にぐったりと座り込み、それを介抱するカンナ。


マイクは慌てて部屋を出ていった。


さて、こちらに注意は一切向いていないのは好都合。


身体強化をし、こっそりベビーベッドから抜け出して開けっ放しの窓から外へ出る。


初めての外がエイミー救出作戦になるとは思いもしなかったな。


そんなことを思いながら日の傾いた町を駆け抜ける。


もちろん、騒ぎになると面倒なので見つからないようにだが。


俺は生まれたころからエイミーと一緒にいる。


朝から晩まで片時も離れなかったといっても過言ではない。


今日が初めてのお出かけで、初めて俺たちが離れた日でもあるくらいだ。


やっとゆっくり本が読めると能天気に送り出した自分を殴り飛ばしたい。


かわいい天使なエイミー、今どんな怖い目にあっているだろうか。


待ってろよ、今、兄さんが迎えに行くからな!



エイミーの気配をたどってたどり着いたのは古びた屋敷。


ここに何人かの子供が連れ込まれている気配がする。


誘拐した子供を気狂いのロリコン野郎の貴族に売り払おうという算段なのだろう。※


そんなふざけたことにうちのエイミーを巻き込んだだけでも許せない。


万死に値する。


地獄の釜のように煮えたぎった怒りをぶつけるため、こっそりと正面から屋敷へと侵入する。


小さな身体を生かし植え込みに紛れながら玄関の見張りに近づく。


「おい、なんかそっちのほう動いていなかったか?」


「猫じゃねぇの?」


そういいながら見張りの片方がこちらへ近づいてくる。


玄関から十分離れたことを確認し、見張りAエモノに襲い掛かる!


くらえ!ゴールデンパンチ!


「ぐはっ」と情けない声を出して見張りAが前かがみになる。


そして、これまた強化したこぶしで目の前に来た頭をぶんなぐってやった。


見張りAは股間をおさえたままという情けない恰好で倒れて気絶することになった。


安心しろ、同じ男としてちゃんと手加減はしてやった。


使えなくはならないと思うぞ、たぶん。


「なんだなんだ」と近づいてきたもう片方の見張りエモノも同じ方法で下し、縛り上げたおかげで危なげなく屋敷に潜入することができた。


どうやらエイミーを含む子供たちは二階の一室に集められ、その隣で下種な野郎どもが集まっているらしい。


誰もいない廊下を進み、例の部屋の前に来て聴覚強化。


これ、以前エイミーが夜寝てる時間に試してみたら教育上よろしくない声が聞こえたので使用を自粛していたのだが、こういう時には役に立つな。


「……に売れば」

「ぐすっ、おとうさん、おかあさん。」

「おなかすいたよ。」

「はっはっは、あの狸が」

「ママぁ、ママぁ」


……訂正。

余計な音ばかり聞こえて情報収集になりやしない。


それでもそのタイミングで突入しようか聞き耳をたてていたら隣の部屋から天使のか細い声が聞こえた。


「ママ……カンナ……、ぐすっ、」


俺の愛する至上の天使エイミーが泣いている、だと……!


気が付くと、俺の蹴り飛ばしたドアが前のに吹き飛んでいた。


部屋の中で醜い野郎どもがわめいているがあいつらに俺は見えていない。


素早く足元をつかみ、壁に投げつける。


一人を巻き添えに勢いよくたたきつけられたそいつは運良く気絶したようだ。


ちょうど近くにいた野郎を殴り飛ばし、とどめの蹴りを入れた後その勢いで次の奴へかかと落とし。


姿も見えず次から次へと倒されていく野郎どもに、主犯とみられる脂ぎって醜い豚野郎が悲鳴を上げて逃げようとするが、簡単には逃がさない。


「ひっ、バ、バケモ…」


入口に降り立った俺を見た脂豚が腰を抜かしてしゃがみこむ。


こんな汚物の手がエイミーに触れた可能性を考えると、こいつには何をしても許されるような気がする。


さぁ、歯ぁくいしばれよ、この豚野郎


楽に気絶できると思うなよ




その後隣の見張りをおびき出して気絶させ、ほかのやつらと同じように縛り上げた。


ひとり凝った拘束にした結果何かに目覚めたかもしれない奴がいたが、それは気にしないことにした。


窓から外に出ると物音に気が付いた親切な誰かが通報してくれたのだろう、衛兵がこちらに向かっているのが見えた。


隣の子供達が集められている部屋にカーテン伝いに侵入し、こっそりと様子をうかがう。


本当はこのまま帰るのが得策だとはわかっていた。


けれど、これ以上エイミーから離れているのがつらくて、様子を見るだけでもと思ってしまったのだ。


子供のカンは侮れない。


近くにいた男の子にすぐ見つかりカーテンを取り払われてしまった。


あぁぁぁ、俺、超ピンチ!


「……るー!」



……エイミーが、エイミーが!


俺の、名前を、初めて、呼んだ!


あぁぁぁぁ!


エイミーマジ天使!


そうして、ほかの子に捕まる前にエイミーが駆け寄ってきたおかげで子供達のおもちゃにされることなく過ごし、衛兵に無事に救助され家に帰ることができた。


衛兵の説明によると、どうやら奴らは隣国のスパイのようで育ちのよさそうな子供をさらい兵として幼いころから教育をする算段であったらしい。


誰が誘拐犯を全滅させたかはわからぬが、死人が一人もおらずまるでやわらかい鈍器にでも殴られたかのような傷であったと述べていた。


家にあったはずのクマの人形がどうしてエイミーと一緒にいたのか家族は首をかしげていたが、エイミーはそんなことを気にした様子はない。


転生し、気が付いたら生後半年の祝いに精霊の加護を願い贈られるクマの人形に宿っていた俺。


今日もエイミーの抱き人形ルークとして、俺の天使と一緒にいます。


※そもそも幼すぎるというまともな思考回路が壊れている。

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