~レベル8~ゆりな22歳~
取られた手はそのまま握られてて、
私がドア側に座ってるから、多分私が実家に戻ったら、紳士に送り出してくれるんだろうけど。
手があつい。汗かく。どきどきする。
いつからこんなに少女みたいになったんだろう。
「はい、今日は有難う」
ここで帰されたのが良かった。
会いたい気持ちともっと知りたい気持ちが募った。
交換してしまったLINEで、
「またみんなで会わへん?」とくれたのもゆりなにとってはドキドキする内容だった。
「このあとにこのボタンを最大のところで押すんだよ」
「そうなんだ!わ!難しいね・・」
「仲間にどうするか確認したら、軍師とかいるから」
「え何軍師(笑)」
彼氏とはたまに会ってはゲームをして楽しく過ごす。
だけど、どうしてもあっちゃん(温士)と比べてしまう、とゆりなは思ってしまった。
はたからみたら乗換だろうし、あっちゃんの立場からすれば略奪だろう。
だけど、日に日に触りたい気持ち、触られたい気持ちは、あっちゃんに傾いていった。
12月の頭、ゆりなの彼氏はゲームの中で開催されているリーグに夢中になっていた。
「ちょっと待って、試合させて」
「え~私といるのに?」
「ラスト6分張り付きさせてほしいんだ」
最初は、何言ってるんだろうと思った。当時この試合の仕組みをゆりなは把握していなかったし、
彼女といるのにゲームする感覚が良くわからなかった。
確かに楽しいゲームなのは理解をしていたが、ネットでつながった人が私よりも大事なの?
とか、就活もせずにてゆうかこの人なにしているの・・・?
という失望の気持ちがふつふつ沸いてきた。
この人ダメだ。別れよう。
ゆりなはそう思ったものの、スグに行動できるわけでもなく
ただ連絡を前より薄れさせていった。
そしてクリスマスの前、とうとうあっちゃんに呼び出された。
ゆりなが、「彼氏が全然クリスマスとか何も言ってこないの、ひまなんだよね・・さみしいなあ。」
という伏線を張ったからだが、ゆりなにとっては他人の力を使ってでも、違う自分、
違うところにいきたかったからに他ならない行動だった。
呼び出されたのが、名古屋駅の近くのカフェだった。
「あっちゃん」
「ゆりなちゃん、来てくれてありがとう。伝えたいことがあったんや。」
ここからが、ゆりなが忘れられない告白のセリフである。
「彼氏がおるとかわかってんねん。だから返事はいらんし、伝えるのも迷惑かなと思ったんやけど。
伝えなければ俺は、なんも変わらんというか、挑戦する男でおりたいから、結局エゴなんやけど、
伝えることだけはしたいと思ってん。返事はいらんし、短い間に好きになるわけないなんて思ったんやけど、
ずっと考えてしまうし、好きなんや。」
ダメでもいいからという、泥臭い体当たりに、ゆりなは心打ち砕かれた。
彼氏には、「ずっと一緒にいるのを考えられない」
と半ば強制的に別れ、あっちゃんと付き合うことになったのである。
ただ、ゆりなのドラリーへのハマり方は、リアルで近くにゲームをする彼がいなくなったからこそ、深まったと言っても過言ではない。
彼以外にわからないことを教えてもらううちに、女の子らしく、ゲームのアバターを着せ替えで楽しむことも知ったし、
テクニカルな事、や試合の見方も多角的になりどんどん覚えていったのだ。
ただ、ゲームにはおたくというか、妙にテンションが高すぎて実態が見えない人も多くいた。
また、やはり男性が多いゲームで、特にリア友同士がやっているチームでは馴染むことが難しかった。
そう、もう時は5月。1か月毎にチームを移籍してたどり着いたのがHANAのチームだった。
HANAとゆりなの出会いは3月だった。ゆりなが当時所属していたチームにHANAが1週間遊びに来たことがあったのだ。
それ以来連絡を取り合うことはあまりなかったのだが、HANAの友好関係が広がる中、ゆりなを見かけたHANAが公開の語りの場で声をかけたのだった。それ以来HANAとゆりなはドラゴン内の公開語りで仲良く話していたのだが、それを見た同じチームメンバーから、そこに移籍するの?
がんばってね、等と声がかかってしまい、気まずくなったゆりなをHANAが引き受けたのであった。
何よりよかったことは、HANAはゆりなと同じような感覚の持ち主だったことである。
1人だとさみしいとも思うし、誰かにワガママなことも言いたいし、甘えたり、つんつんもしたい。程よい距離感でOPENに付き合いたい。
その感覚で言葉を発していることがゆりなにはよく分かった。そして何よりもHANAは好きな人にとても好意的だった。
ゆりなの会話は必ずキャッチするし、時にはじゃれあった。イン率で言うとHANAはゆりなの3倍程度高かったが、
きたときに頑張るメンバーをHANAは信頼していた。HANAはチームメンバーを信じ、好きで言動をしていた。
ゆりながHANAのチームに入って数人移籍をすることがあったが、全員がHANAはいい団長だよ、と言って去って行った。
去る理由は色々あるが、チームの問題ではないなとゆりなは思っていた。
自分で暴走して自分で辞めていく人たち。
戻ってきてほしいと思わない人たち。
多分HANAも同じことを思っていたと思う。団長として、出来ることはHANAは全部していた。
しつこすぎない絶妙なOPENさはまぶしかった。そして、自分たちの居心地の良い王国を創っていくと。
女性は少ないチームだったが、ゆりなはこのチームが好きだった。
ゆりなにとって、あっちゃんは生活の一部となったし、ドラゴンも、間違いなく生活の一部となっていた。




