~レベル5~Suikun18歳~
翠と書いて「あきら」と読む。「みどり」とも「すい」とも読めるこの感じが俺は好きだ。
夏の京都。蒸し暑くて、息苦しいこの場所が俺はあんまり好きじゃない。
最後の男子高校生活と、多分こうやって机に頬当てて、グータラ空見上げてセミの声きくなんて
最後なんじゃないか、地球なんて、受験なんてくそくらえって思ってた。
地元の近くは頭が良い学校が多くて息苦しい。
専門学校に行きたいと親に頼み、俺は受験とはおさらば。周りは将来の不安と闘ってる。
俺は何になるんだろう。
スポーツが好きだから、不安もあるけど他にその類いの選択肢しか思い浮かばなかった。
実家から通える専門学校に行って、手に職付けて、
結局この京都で生きていけたらって、思ってる。
バイトも恋愛も正直億劫だ。
そんなことを翠は思っていた。2013年の夏だった。
翠がバイトも恋愛も億劫になったのには原因がある。
つい先日、事件が、バイト先で起こったのだ。
高1の終わりから1年半、翠はコンビニでバイトをしている。
結構慣れてきて、淡々とではあるが理解力が高い・作業スピードが速い、と店長の天利さんも優しく評価してくれている。
店長の天利さんは、昔はいけめんだったのだろう、今でもさわやかで、人望が厚い50代の男性だ。
事の始まりは彰が高1の時、レジ打ちを初めて間もない春先に、
店長が万引き犯を捕まえた。それが翠と、近くの女子高に通う、高3の美紗緒の出会いだった。
美紗緒は綺麗だった。ハーフなのかなと思う大きな瞳と整った鼻筋に大きな口、
背は小さめだがバランスの良い体つきと綺麗なつめをしていた。
翠は、目を奪われたと同時に、万引きと言うシーンに立ちあってしまったことに動揺をしていた。
店長はなぜこのようなことをしたのかを問い、
お金を支払わないということが、コンビニだけでなく、その先の業者、そして、
良いものがきちんと人のところに届かなくなるサイクルをひきおこすのだと話していた。
その話は翠にとって衝撃だったが、特に何も関わろうとせず、ただ、横目で様子を感じた。
美紗緒は泣きながら謝っていたが、警察に突き出さずに返したことが、
美紗緒の容量の良さに拍車をかけることとなってしまったのではないか、と俺は思う。
高2の梅雨明け。
万引きの件はたまに思い出すものの、
男子校の友人に話すことで、翠の中では完結したはずだった。
あの日までは。
「翠君」
振り向いたら、そこには美紗緒がいた。
なぜ名前を知っているのか俺は動揺した。
でも、すぐに、「名札つけてコンビニで働いているんだ、そこで見たのだろう」と平常心を保つことを心がけた。
正直戸惑った。
俺、 あの時 何かしたか。
美紗緒「ねえねえコンビニって、賞味期限きれたものとかって捨てちゃうんでしょ?もってきてよ」
突然のお願いに翠は戸惑った。何のために?てゆうか何で俺?そんなことできるの?できなくないけど俺やるの?
かたまってしまった。と同時に、立っている美紗緒を見るのは初めてで、ドキドキしてしまった。
やはり美紗緒は綺麗だった。香水なのか、ほのかに良い香りと、大人っぽいブレスレットと、綺麗に染まっている茶色の髪は、
オトナの男性や、ギャルっぽい女友達が周りにいることを感じさせる風貌であることは、改めて気づいたことだった。
翠「なんで俺・・」そこまで言うと、美紗緒は翠の手をとって言った。
美紗緒「それ、知る必要ある?いいじゃん」そういって笑う美紗緒は怖くて、綺麗だった。