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「いやいや、女が外道丸は無えだろっ!!」

「ええっ!? 急にどうしたの彰ちゃんっ!?」

 俺の盛大な思い出しツッコミに、紫ねーちゃんがびくっと跳ね上がった。病人の前でデカイ声。浅見彰吾一生の不覚。

「ああ、いや……ごめん。何でもないんだ。ただちょっと世の非常識と不条理を憂いていただけで」

「ふうん……?」

 ちょっと不思議そうに首を傾げながらも、紫ねーちゃん――叔母は、ひとまず納得してくれた。

 母と叔母は歳の離れた姉妹で、実のところ灰守紫という人は俺にとって叔母というより姉と言う方がしっくりくる。

 俺と叔母とは七つ程しか歳が変わらない。そんな理由もあって、ガキの頃の俺は叔母を紫ねーちゃんと、そう呼んでいた。

 ベッドの上、柔らかな笑顔を浮かべるねーちゃんの様子は昔と変わらない。愛嬌のある太めの眉に、深めに目蓋が掛かる瞳は黒目勝ち。ただ、変わったところもある。昔から色の白い方だったけど、入院生活の為か更に白くなったみたいだ。それに、少し痩せた。そしてもうひとつ。

「そういえばさ、紫ねーちゃん、髪、切ったんだね」

 黒絹の様に艶やかで長かった髪。髢で長さを足すこともなく、自前の髪だけで結っていた姿が子供心に綺麗で格好良い、なんて思ったものだ。それが今は首の後ろでバッサリと切り揃えられたショートボブになってしまっている。立派な眉の上で揃えられた前髪だけが、かつての面影を残すのみだ。

「ああ、これね。もうずっと入院生活でしょう? 長いとお手入れも大変で、看護師さん達にもご迷惑を掛けるから、思い切って切っちゃった。ふふ、似合わない?」

「いや、よく似合ってると思うよ。また美人が上がったんじゃない?」

「まぁ。彰ちゃんたらいつの間にお世辞言えるようになったの? でも、嬉しいわ」

「ねーちゃんが美人なのは本当だよ」

 なんでもない、という風にねーちゃんは笑う。そんな姿がなんだか酷く健気に思えた。

「もう、そんなに褒めても何にも出ないわよ? ……ところで彰ちゃん、神社の方はどうだったの?」

 思い出した様に話題を切り替えるねーちゃんだったが、実際のところは気になって仕様がなかったところだろう。正直そこのとこの報告は非常に気が重い。

「うん、まぁ、そこそこ荒れてた、かな」

 境内はゴミこそ転がってはいないものの、雑草が至るところに生えていて、石畳などは苔むしてしまっていた。本殿の内側も確認してみたが、雨漏りしているのか床板が反り返っている場所や、腐りかけている場所まで見られた。そこそこどころかかなり荒れていたのだが、流石にありのまま話すのは忍びない。

「そう……。それじゃあ、神様に申し訳ないわね」

「う、うーん。まぁ、生憎と神様は居なかったなぁ……」

 ――ワシは外道丸――妖の外道丸よ!

 ……妖怪なら居たけどね、とは口が裂けても言えなかった。

「まぁ、神様がどんなかなんて知らないんだけどさ、ハハ」

 途端にしゅんとしてしまったねーちゃんに、誤魔化す様に軽口を利いてみると、急にきょとんとした表情を見せた。

「え、どうかした?」

「ああ、そっか……」

 返した俺へ少しだけ寂しそうに苦笑するねーちゃんに、今度は俺がきょとんとする番だった。

「何?」

「ううん。覚えてないかもしれないけど彰ちゃんも昔ね、会ってるのよ。神様に」

「へえ?」

 あんまりなねーちゃんの告白に間抜けな声を上げながらも、俺は「ああ、成程な」なんて、妙に納得していたのだった。

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