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( 序 )

 2013/8/7 初投稿になります。まずは過去作品から投稿してみよう、なんて思っていた頃がわたしにもありました。

 ……が。

 せっかくなので新作(まだ書きあがってないですけどね!)を連載形式で上げていこうと思い立った次第です。

 折りを見て過去作の公開も出来ればいいなと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

 ではでは。

「暑ぅ――」

 本日何度目かのぼやきと共に空を仰ぐ。ギラついた太陽は自己主張全開で、周囲をゆらゆら焦している。少し慎んでほしい。

 山の中、周りを緑で囲まれているといっても暑いことに変わりは無い。八方から鳴り響く蝉の声が、より一層暑苦しさを乗算する。ああ、もう、なんかお前等ほんともう、絶滅しろ。

 生態系の破壊を祈念しつつ視線を戻す。続く山道はもう随分と緑の浸食を許してしまっていて、人の往来が無くなっていることを改めて教えてくれた。その道をふらりふらりと進んでいく。

 薄ぼんやりと覚えているこの辺りの山を、ガキの頃はぴょんぴょこ駆け回っていたものだが、怠惰な現代都会っ子生活が染みつき、もやし高校生へとクラスチェンジを果たした今の自分には中々ハードな道程だ。本当、ガキの頃ってのは何であんなに元気なんだろう。あのバイタリティーは天井知らずというか、宇宙だと思う。

 高二の夏休みを利用して母の田舎までやって来た。目的は紫ねーちゃん――叔母の説得の為だ。

 振り返って、高いビルの無い街並みを視界に収める。山の麓近くに小さな病院が見える。叔母はもう何年もそこに入院している。病状は思わしくないらしい。

 田舎の、それも小さな病院だ。設備も充分とはいえない。もちろん、親類縁者皆そろって叔母に転院を勧めてきたのだが、頑としてそれを聞き入れてはくれなかったそうだ。そこで、ガキの頃よく遊んで貰っていた俺にお役が回って来た訳である。俺自身、叔母には転院して、出来る限りの治療を受けて欲しいという想いがある。当時の記憶はぼんやりしたものだが、叔母に良くしてもらったことはしっかり覚えている。むしろ、すげー懐いていたのだ。

 神社の境内で、杜で、よく遊んで貰った。しかし、その神社こそが叔母にこの地を離れさせない理由になっている。

 神社はこの先、山の頂上付近にあって、丁度病院に背を向ける形で建っている。そして神社が見守る先には、今はただ大きな水面が広がるだけ。人工的に作られた堰。ダムだ。母の、そして叔母の故郷が沈んだダム。

 当時限界集落となっていた村は、周囲をぐるりと山に囲まれている立地等からダム建設の用地となった。村は無くなり、住民も居なくなった。神社が、神様が見守るべき場所が、無くなったのだ。

 叔母はその小さな神社で巫女の様なことをやっていた。いや、今もその想いは変わらないんだろう。もう誰も参拝することのないそこを、或いは神様を、自分が置いていく訳にはいかないから、と叔母は言った。

 律儀に過ぎる。

 それじゃまるで心中だ。見えもしない、居るかどうかも分からないものの為にそこまですることない。

 ――婆ちゃんの代から巫女を継いだ、生粋の信仰持ちである叔母には届かない考えなんだろうけど。

 しかし。

「律儀って言えば、俺もそうかもなぁ」

 額の汗を拭いながら、漸く見えてきた石段を見上げる。ここを行けば境内だ。裏手ではあるけど、石段は無駄にしっかりと段を持っていて、仰ぎ見ればくらりと来る。

 病室で叔母に転院を勧めた。叔母からは神社の様子を見て来て欲しいと頼まれた。何の意味も無いことだと思ったけど、それで叔母が折れてくれるなら安いものだ。

 腐れ太陽と石段からの照り返しを受けながら登っていく。肌が焦げる様なこの感じ。成程。フライパンの上で踊る食材の気持ちってのはきっとこんなだ。

「……ふう」

 調理が完了してしまう前に境内へ辿り着く。開けた空間だけあって、さっと吹いた風が少しだけ体を冷やしてくれた。

 目の前に見える小ぢんまりとした本殿をぐるりと迂回して、正面側へと向かう。片田舎の小さな神社だ。建物は小さいし、敷地そのものも広くはない。

 あっと言う間に正面側の鳥居の前に立つ。眼下には大きな水面。かつてこの神社が見守っていた村が、土地がその下に沈んでいる。

「うーん、諸行無常」

 などと、独り言を零した時だった。


「――クハッ!」


 頭の上から、声がした。

「小僧が、諸行無常を詠うかよ! クハッ! クハクハクハッ!」

 降って来た声を探して視線を上げて、そいつを見付けた。あろうことか、鳥居の上でだ。

 真っ黒な着物に、真っ黒な髪の女だった。どっかりと胡坐をかいて、俺のことを見下ろして、妙な笑い声を上げている。

 いや、もう色々考えたのだ。脳内会議は紛糾したのだ。

 このくそ暑いのになんて格好だ、だとか。

 胡坐はねえよ、とか。

 艶のある黒髪は良いとして、それ明らかに身長より長いだろ、どうなってんの、とか。

 そもそも、どうやって登ったんだよ、そこ、とか。

 しかしながら、だからこそか、オーバーフローした脳髄が導き出した言葉は、

「えーと、どちら様でしょうか?」

 だった。阿呆なのだろうか俺は。

 しかしてそいつは応えたのだ。クハクハ笑いながら、こう言うのだ。もう、俺の思考は銀河の果てまでエスケープである。

「ワシか? ワシは外道丸――妖の外道丸よ!」

 ……ああ、夏の日差し、デンジャラス。


 拝啓、紫ねーちゃん。神社に居たのは、妖怪でした。



      ――― あやしの杜、銀のかみ ―――



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