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銃弾の仕組み 4

ひたすらアクション

ニライが銃弾のように飛び出す。金属の軋みが遅れて聞こえてくる程の速度。彼は地面を侵食するナユタの漆黒を追い越すと、さらに加速。

程なくして巨大な装甲車両数台と百人単位の兵士がニライの視界に入った。

センサーに張り付いていた兵士がニライの接近に気付き、仲間に敵の襲来を知らせる。

疾駆するニライの周囲に銃弾が着弾し始める。ニライはそれを無視、さらに速度を上げ、銃弾が一つも掠らないうちにノトエト軍の最前部と交戦状態に入った。

兵士との間にあった残りの距離をほぼ一息に詰めると、敵の小銃と腕を巻き込み、右腕の一撃のもとに敵の体の半分を抉り取る。銃口が一斉に向くが、一向に意に介さない。組織的に放たれていない銃弾が空しくニライの装甲で跳ねる。着弾の衝撃など無いように平然と周囲を見渡すと兵士が密集している方向に体を躍らせ、鬼の様にその膂力を振い始めた。

真っ黒な両手を敵の口の中に突っ込み、口を無理やり開ける要領で下顎を引き千切る。兵士が叫び声を上げる前に引き千切った下顎を喉に突き込み、痛みと共に喉へ大量の血液を流し込む。後ろに回り込んできたノトエト兵に足払いを掛けると、即座に腕を跳ね上げる。その勢いを乗せた裏拳が顎から頭頂部突き抜け、手甲の鑢が兵士の顎骨から表情筋、前頭部を削り飛ばす。逃げようとする兵士の頭を掴むとその兵士の体を銃弾からの盾にする。小銃の弾が当たる度に跳ねるその身体の陰でニライは掌中に黒い物質を集結させ、それを右方の兵士に投げる。人間の腕から投げられたとは思えない程の衝撃が、数人の兵士の体を貫通し、その射程にいた戦車の装甲に深く減り込む。それを見たノトエトの兵士達は上官の命令も無視して距離を取る。

ニライの目が、兜の奥で細くなる。

そして、右手から漆黒が噴き出し、新しい刃が生まれ出た。

歪な螺旋状の石突き、ニライ自身よりも長く凍土の様な光沢を持つ柄、頑健な敵を叩き切る両の斧刃と先端を飾る巨大な刃。慈悲など欠片も感じられない、おぞましい程に純粋な兇器だ。

薄汚れた肉片になった兵士を捨てると、竜巻のように黒い狂気を回転させる。血煙と共に恐怖と痛みに啼く兵士の声。狂気は捕えた兵士を一寸刻みに処した。銃を構えていた兵士の体を下段から切りつけ、噴水のように噴き出した飛沫は鎧を汚す。手榴弾を投げようと試みた腕を切り飛ばし、腕が付いたままの手榴弾が兵士が密集している場所で真っ赤に爆ぜる。爆風と兵士の泣き声を尻目に真横にいた兵士に足を振り降ろして小銃の銃身をへし折る。斧を旋回させて銃の持ち主を分断、斧の旋回を身体の側面に移動させて煩わしい銃弾を弾いた。

ニライの視界に一際派手な軍服に身を包む司令官らしき男が入ってきた。恐慌状態の兵士を何とか纏めようと、喉を酷使している。ニライは斧槍を大きく旋回させて周囲の兵士の首を吹き飛ばし、その遠心力を腰だめに構えることで押し殺す。旋回の止まった隙に狙いを定めていた兵士との距離を腰に斧槍を構えたまま縮め、兵士の頭を片手間に握りつぶすと、司令官に斧槍の先端を向け、石畳が陥没する程の踏み込みで突きを放つ。神速の突きはニライの周囲に烈風を起こし、途中経路にいる兵士たちを穿ち、抉り取る。遠方からの突きに気付いた司令官は横に飛び退く。ニライが起こした烈風が彼の顔を叩き、軍帽を吹き飛ばす。司令官の後ろにいた兵士の肋骨が槍の穂先に持って行かれた。ニライが即座に斧の刃を司令官に叩きつけるべく、その膂力を振う。敵の司令官は数人の兵士を犠牲にする形で奇跡的に避けると、呼吸が感じられるほどの至近距離から拳銃を撃つ。ニライは手甲でそれを弾き、得物を上段に構える。

だが、その姿が黒い影を伴う程の速度で横に飛ぶ。

先程弾いた筈の銃弾が真後ろから、装甲の薄い後頭部を狙って飛んで来たのだ。それだけではない。今まで散発的に放たれていたノトエト兵の銃弾が一斉に軌道を変え、蜂の群れのようにしてニライを襲い始めた。

ニライは化け物じみた反射神経と速さで弾の襲撃を避ける。そして避けざまに数人の兵士の首をへし折ると、足元の石畳に斧槍を叩きつけた。爆風と紛う程の衝撃が周辺で暴れる。砂埃と、霧と化した黒い物質が兵士達の視界を一気に奪い去る。ただ砂埃を立てただけではなく、粒子の挙動を黒い物資が制限している。風が吹いても砂埃が晴れない。

恐怖から、物音がした場所に兵士が銃弾を撃ち、無様な同士打ちを始める。司令官は何か言おうと、口を開ける。

その口に金属状の物質で覆われたニライの踵が減り込んだ。そのまま顎を吹き飛ばすと、眉間から首の根元にかけて黒い刃が通る。丈夫な頭蓋が紙切れのように弾き飛ぶ。

視界が開けた時、兵士は肉塊と化した司令官と、その目の前に立つ血まみれの悪鬼の姿を見た。その鬼が動きの止まった兵士の方を向く。

その顔は兜で見えない。

だが、僅かに覗く目は、確かに笑っていた。

恐怖した戦闘装甲車両から歩兵の事など全く考えていない砲弾が発射される。ニライは両手を斧の柄に添え、柔らかく砲弾の軌道を逸らすと、後ろに居たノトエト兵が味方の砲撃で爆発に飲み込まれる。ニライは砲弾を流した際の衝撃を利用して回転、周囲の人間を刃の渦に巻き込む。死の斬撃はその余波で石畳を微塵にした。

再度放たれる砲弾、それを今度は両手で振るった斧の刃で切り捨てると、先ほどの突きの際に見せた急加速で戦車の目の前へ。

ニライの体から大量の黒が噴き出し、下段に構えた斧の刃に収束する。


装甲車両が三度目の砲弾を放つより早く、禍つき斧槍は天を衝くような巨刃と化した。


凄まじい歓喜の笑いと共に巨大な斧槍を下段から一気に振り上げ、稲光の速度で振り下ろした。高い硬度を誇る金属を瞬時に屈服させると巨大な戦闘装甲車両を一太刀で真二つに。数瞬後、ニライを巻き込んで灼熱の爆風が辺りの兵士を焼く。残った兵士は熱風から顔を守りながら、爆発の中心部を凝視する。

何かが真白い爆風を割ったかと思うと、そこから悠然とニライが出てきた。

彼は次の得物を狩ろうと辺りを見渡す。

―――その時多くのノトエト兵が既に恐慌状態のまま無秩序に退却していた。

撤退に至る時間の短さにニライは思わず瞬きを繰り返した。

ニライは申し訳程度に放たれる銃弾を完全に無視、斧を霧散させる。

「…………」

ニライの体から黒い物質が噴き出し、ニライの意志のままに収束する。

流線形の先端に、中心が僅かに窪んだ短めの柄。風を切ってあらゆる場所にまで届きそうな槍がニライの手の中でその重みを主張している。

ニライはそれを軽く放って重さを確かめると、目を少し細める。

ニライの腕が消えた。

澄み切った高音の風切り音が昇り、続いて銃声が可愛く聞こえるほどの轟音、更に大量の人間が叫喚する音が響く。一瞬で出来合いの陣形が乱れる。

ニライは体から噴き出した〈黒質〉から新しく槍を生み出し、それを手に持つと、人間どころか工業用の機械と紛うほどの速度で腕を振るい投擲する。何度も、何度も。戦車の砲弾が子犬との遊びにしか聞こえない地響きが鳴り、その度に湧き上がる風は兵士の体を強く揺さぶる。

まずは戦闘装甲車両、巨大な火器を持つ兵士、小銃を持つ兵士。一回の投擲でダース単位の声が消えた。建物にジャベリンが当たれば巨大な穴を開け、中の兵士ごと建物が倒壊し、遠くまで逃げた兵士に投げればその身体の中心を貫き前方にいた数人の兵士ごと壁に縫い付ける。

数分で敵対勢力が沈黙した。

一人だけ、壮絶な虐殺の中生き残っている兵士がいた。壮絶な光景を見たため腰が抜けたのかその場に崩れ落ち、肩と足を震わせている。滴るほどの血が身体にかかり、股の間は濡れ、異臭を放っていた。

ニライは自分の甲冑を霧散させ、無表情で歩いていく。

残った一人の顎を掴み、目を覗き込む。

「あぁ、良カった。良い具合に壊れテますね」

満足げに言うと兵士の体を担ぎあげる。

「ナユタの所で話を聞きまシょうね」

ニライは誰に言っているのか分からない言葉を紡いで歩き始める。

その歩みはすぐに止まった。

視界の隅に望遠レンズの光。

肩の荷物を放り投げ、身体から噴き出した漆黒を手に収束させる。

だが、ニライの顔に驚きが浮かぶ。


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