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雪道は異世界フラグ


朝7時

8時半までに会社に行けばいいのだから起きる時間としては問題はない。

今日は…自炊も考えていたらしいのだが昨日やってしまったので

どこかで安いものでも食べようと思っていた。


入社してから数年は経っていた。

地方都市に住んでいてその都市に本拠地を置く、全国でもそこそこ知られた会社に勤めていた。

大学の理工学部を卒業をして、入社してから彼は元々希望していた業種だったこともあったので能動的に仕事をこなしていた。

つけっぱなしのテレビから天気予報で住んでいる地方都市で雪が降っていることが伝えられた。

身支度を済まして、冷蔵庫から栄養ドリンクを一本軽く飲むと車のキーと

「久我 直樹」と書かれた名刺を取り出し玄関のドアを開けた。

車は中古車だが4WDであるのである程度は安心出来た。


車のエンジンを始動させ、慣れた手付きでアパートの駐車場を出た。

どうやら今日は雪が降っている影響でいつも使う国道が混んでいた。

そんな様子に久我は苛立ちを隠せなかった。


「はぁ~。いちいち雪ごときでなんでこんな渋滞すんのかね~。」


やってられねぇという心情でそう呟いた。

最近この辺りは都会からの引越しが相次いでいると聞いていた。

それだけなら別になんとも無いのだが問題はその住民たちの運転スキルだ。

どうも冬の季節になると雪で覆われた路面に四苦八苦するドライバーが多いのだ。

この手のドライバーは非常に遅い速度で走るもんだから地元組はある種迷惑に感じてしまう。


"まったく傍迷惑な話だ…"


これでは朝食べれるかどうか怪しくなってしまうと感じていた。

このような渋滞が起こると普段は20分ぐらいの時間で行ける道もどれぐらいかかるか分からない。

このままこの国道に留まろうとすれば会社に時間通りに着くのが精一杯になる。


"ちょっと遠回りになるけどあの道から行くか"


国道が混んでいる時に地元の人々は裏道を使う事が多い。

裏道にしてはそこそこ広く走りやすいので利用しやすい。

久我も国道で事故渋滞が発生したり、このような雪の日によく利用していた。

難点は多少遠回りになることだったのだが…


"ここで回るか"


交差点で車を左折させその裏道に繋がる道を走っていた。

今の時間は7時30分。

朝食を撮ることを考えると飛ばさなければいけない時間だったのだろう。


"おっ!やっぱこの道空いているな。


やはりとも言うべきか裏道の方は随分と空いていた。

土地勘の無い都会から引越ししてきた人は幅の大きい国道で無ければ

この雪道を走ろうとする気持ちが大きいのだろうか。


そんな気持ちがこの裏道の空き具合に現れていたような気がした。


"少し飛ばすか…"


言うまではないが冬道で飛ばすことのリスクは高い

よく冬は夏よりも10km以上スピードを落とさなければいけないと言われている。

雪で覆われた路面はスピンしてくださいといっているようなものだと誰かが言っていた。


もちろん車によってもその限界は違う。

彼の乗る車のように4WDの車は限界が高いと思われ冬でもスピードを出す者が多い。

彼もそのような者の一人であったことは言うまでも無い。


"なんとか食べれそうだなこの様子だと…"


予想していたよりも空いていたためかスムーズに進んでいたものなので

すっかり安心しきっていた。

これでも大分車の運転には自身があるほうだった。

教習所で免許取る際でもMT免許で教習官から運転技術を誉められ、

もちろん一発合格だった訳だし、同僚を乗せた時もいい運転だったねと言われていたという

経験もあったからである。(ちなみにその同僚の運転は酷いものだった…)


まあ、今日も朝食べたらいつもどおり出勤して仕事をこなして

家に帰ったら運動で汗をかいて、風呂に入って、

ゲームをしてという毎日の習慣がいつもどおりあるだけか~

なんてことを余裕からか思っていた。







「今は7時45分か…あと10分ぐらいで着くな」


腕時計を見ると針が7時45分を指していた。

職場近くのコンビニにでも立ち寄って398円あたりの弁当で済まそうかな~と

コンビニ弁当で済まそうかという悲しいまでの貧相な朝食を思いついていたときだった。


「んっ?」


…遠めに妙にふらついている対向車のトラックを見掛けた。


"…なんか危なっかしいな~あのトラック"


自然と警戒してくる。

大丈夫だこのあたりでスリップを起こさないようにすればいいだけだ。

スピードを落としてアクセルを踏まないようにすれば大丈夫だ。

他の車もそんな様子でスピードを落としているんだ。

大丈夫…まさか事故るだなんてそんなこと…


トラックからタイヤの空転する音が聞こえてきた。

どうやらスリップしてましたね。

なんだかこちらの方に向かって来ましたね。

あ~怖い怖い。

だんだんと近づいて来ましたね。

自分の前の車はなんとか避けて自分の視界にそのトラックが…


「ちょおおおおおおおおお!!」


急に視界に現れたトラックを避けるようにハンドルを左に回し、アクセルを踏んだ。

こんな場合ブレーキよりもハンドルで避けてアクセルを踏んだほうがいいと聞いたときがあった。

藁にもすがる思いで咄嗟にその動作を行った。


"頼む…避けきってくれ!!"


迫るトラックが恐怖感を煽らせる。

そのトラックを彼の車はなんとかかわして難を逃れた。

まさに間一髪というべき状況下だった。


"しゃああああああ!!ざま~ねえなあのトラッ…"


あれ…

真っ直ぐ進んでいたはずの自分の車が明らかに横に滑っているんですけど…

俺の車もスリップしているんかい!

アクセル急に踏んだりしたからかな…今冬だって事一瞬忘れてたんだよな…

はあ~事故ったら周りの印象悪くなるからな~これからの事考えないと…


スリップした車の中でそんなことを考えていたのを覚えていた。

ふと運転席の窓を見ると電柱が近づいているような気がして…

違う気がするんじゃない。近づいているんだ。


「っあああああああああああああああ!!」


どうするかパニックになっていた。

トラックのようになんとか避けようと思って避けられる状況では無い。

どうしましょう!どうしましょうだなんて思っている内に電柱に

随分と激しい接触をする直前で意識を手放してしまった。











…なんだか意識がぼんやりする。

確か最後に見たのは電柱に激突して…

事故の内容をなんとか思い出して今の置かれている状況を把握した。


横たわっていた自分の視界に霞みながら純白の真っ白い雪が見えた。

そういえば雪をじっくり見たこと無かった。

だけどもこうして見てみると美しいものだとはっきりしない意識の中で暢気に思った。

だけどもどこまでも真っ白に染まっているものと思われた

それは突然赤く鉄の味を発して染まっていた

多分あれは俺が汚してしまったものだろう。


自分が無茶な事をしたばっかりに真っ白な雪は赤くなってしまったという事実。

恥ずかしい気分になった。


強い痛みが今更襲ってきた。

俺は…ここで死ぬのか…

そんな結末が容易に想像できた。


まあ死ぬんなら死ぬんで…仕方ないか…

もういいや…どうせ生きたって変な障害とか残るだけだし、

ここであっさりぽっくり逝ったほうがいいか…


んじゃ来世にでも期待しましょう

おやすみ…
















何故か意識がはっきりしていた。

死んでしまったのではないのかと疑問に思っていた。

まさかあんな状態から生還するとは考えにくい。

いくらなんでもあの血の量では失血性ショックあたりでご愁傷様になるには容易だ。

けれどもさっきよりも意識ははっきりしている。

もしかして運よく腕の良い医者にでも巡り合ったのか。


誰か見舞いにでも来てるのかな…

正直あんな事しておいて心配されるだなんて恥ずかしい。


目をはっきりと開けてはいなかったがそんな多様な考えを張り巡らす。


"とりあえず目開けよう…意識戻っていないって思われてもあれだし…"


目を開けるとドラマで見かけるような病室の天井…

…という予想を嘲笑うかのように雲ひとつ無い早朝の青空が見えた。


「…はあっ!?」


いやいやいやいやおかしいってこれ

どういう事なんですか

事故で意識朦朧としていた時からどうしてこうなるんだよ…

だいたい外じゃね~か!俺は放置でもされたのかよ!

まったく警察とかは何を考えて…


何気なく首を動かして辺りを見渡そうとして絶句した。

見慣れた地方都市のビル群は何一つ無く変わりに存在していたのは

見たことの無いような植物や森、田舎に良く見られる小川が視界に映っていた…


…あれ

ここどこですか?

見たことないような植物があるんですけど…

俺の住んでる都市は20分もあればほとんど田舎のような所だけど

ここまで田舎じゃない…


どうしよう…

体の方は大丈夫なのか?

なんか事故があったなんて嘘かのようなぐらいいたって平常なのが怖いのだが…

とりあえず体の方を見てみないと分からないな…

出血していた所とかきちんと確認しないと…


「…よいっしょ」


首を持ち上げて体の方を見渡そうとした。

なるほど芝生の上で倒れていたのか

妙に体がチクチクするのかと思っていたが芝生の上で倒れていたのならしょうがない


…厚着だったはずだからこんなに敏感に感じるとは思えないのだが…

それに妙に首を持ち上げる時どうも感覚がおかしかった。

なんだか首が長くなってしまったような奇妙な感覚だ。

まあ、そんなことよりも自分の体がどうなっているか…


"…"

 

自分の腹部をみようとしてみたら

なんだか白い何かがある。

意識が朦朧としていた中でみた雪ではない、動く何かだ。


小さい羽の集まりのようなこれまた白い何かが見えたような気がする。

翼みたいなものに見えたような…

気のせいだろ多分。


それとなんか細長い青と白で構成された極めて生物的な物体をみた。

なんかフリフリさせている…


あとなんかすっごい太い足があるんですけど…

なんか明らかに爪鋭いですよね。


…もしかしてとんでもなくまずい状況なのか

俺は今ほぼ0mの位置にいる得体の知れない何かに命狙われてるのか?

だとしたら今は体の心配なんかより身の安全を最優先させたほうがいい。

とりあえずここからは離れたほうがいいだろう。

幸いその得体の知れない何かは動こうとはしていない

出し抜けることは不可能じゃない。



そっと離れればうま~くその場を凌げるはずだ。

凌ぐつもりだったんだ。

…得体の知れない何かの尻尾らしきものに足で踏んでしまってそれも徒労に終ってしまうのだが


「っっんんんんんん!!」


得体の知れない何かに返るであろう痛みが何故か自分に痛みが返って来た。

自分に痛みが返って来たのはなぜなのかという疑問が頭に浮かぶ間もなく

訳も分からずのたまっていた。


「…!?」


のたまう内に水溜りの水が顔に掛かってしまった。


「いたぁ…まったく何がなんだか訳が分からねえよ、まったく!」


もう何度でも悪態をつきたい気分だった。

気が付いたら訳の分からない場所にいて、見たことの無いような植物だとか見かけて

変な得体の知れない何かを間近に見たと思ったらその尻尾を踏んでしまって

何故か痛みが自分に返ってくるという理解不能な出来事まで起こるわでもはや苛立ちは最高潮に達していた。


「ったく…芝生の上だから顔とか汚れてるな多分。水溜りで様子をみて…」


そんな悪態をついた後に訪れた沈黙。

水溜りで映っていたのは確かに自分のはずなのだが…


なんか…顔がおかしくないですか?

口と鼻が前の出っ張っていますよね。

なんかこめかみから突起物…といえるのか分からない柔らかそうな何かが出てませんか?

あと目が怖い…なにこれ睨まれたら降参する自信があるんですけど

金髪な頭と相まって余計…

それと瞳の形がいわゆる爬虫類みたいな形してますね。


…爬虫類?


首を背後に回してみるとさっき見かけた白い小さい羽根が集まって出来た翼が存在し、

さらに下に視線を回すとこれまたさっき見かけた青と白の尻尾があるのを確認できた。

腹部はまたまた見かけたことのある真っ白に染まっていた。


そっか得体の知れない何かって俺のことかあ…


しゃれになってない


"どう見てもドラゴンじゃねえかああああああああああ"


なんでこんなことに…事故ったらドラゴンになってたなんて

ありですか?そうなんですか?

夢だ夢だ絶対夢だ。

うん!夢だこれは

目を閉じてもう一度は目を開けたらいつもの精一杯洒落たつもりの寝室で目が覚めて

身支度をして、出勤して、仕事をこなす毎日が来るはずだ!


そうと来たら早速目を閉じましょう

10秒ぐらい目を閉じればこんな景色と体におさらば!

しっかり目を閉じて、10秒たったら目を開けましょう

さあって今日も1日頑張りましょう!






10回ぐらいやってまったく景色と体が変わることが無かった。

正直言ってしょうも無い。


今までの事を考えると俺は事故で瀕死の重傷を負っていた。

そんな場面から次に目覚めた時にこんなことになっていたのだ。

もしかしてこの場所が俺の来世であって、この体はその来世での姿なのか…


…認めたくないです。はい。








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